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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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張り詰めていた糸

「ちょっ……ニーナさん、何やってるんだよ! やめろ!」


 その時だった。


 ちょうど診察に訪れたシルが、扉を開けるなり私の腕へ飛びついてきたのは。


「奥様! 落ち着いてください! 一体どうなさったのですか!?」


 後ろから入ってきたリシテアも、私を抱き締めるようにして必死に動きを押さえ込む。


「離して……! 私はもう、生きていたくないの。生きている価値なんてない……だから──」

「生きている価値がない人間なんて、いない!」


 耳をつんざくような叫び声だった。


 あまりの勢いに、私の身体がびくりと震える。


 顔を上げると、シルは肩で荒く息をしながら、真っ赤になった目で私を見つめていた。


 怒っている。


 けれどそれ以上に、その瞳には悲しみが溢れていた。


「なんで……なんでそんなこと言うんだよ!」


 震える声で叫びながら、シルは拳をぎゅっと握り締める。


「みんなが……俺も、リシテアさんも、先生も、この屋敷のみんなだって……ニーナさんに少しでも長く生きていてほしいって思ってるんだよ!」


 ぽろり、と大粒の涙が頬を伝った。


「それなのに、なんで死にたいなんて言うんだよ……!」


 言葉の途中で嗚咽が混じる。


「生きたいって願っても、生きられない人がいるんだ……! 必死に生きようとして、それでも病気には勝てなくて……泣きながら死んでいく人だって、たくさんいるんだよ……!」


 堪えていたものが決壊したように、シルは声を上げて泣き始めた。


 医師見習いとして医院で働く彼は、きっと私などよりずっと多くの命の終わりを見てきたのだろう。


 どれほど生きたいと願っても、その願いが叶わなかった人達を。


 残された家族が涙を流し、悲しみに暮れる姿を。


 だからこそ、「死にたい」という私の言葉が、誰よりも許せなかったのだ。


「…………」


 胸が締めつけられる。


 一時の感情に任せて吐き出した言葉が、こんなにも彼を傷つけてしまった。


 私を助けたいと、病と闘ってほしいと願ってくれている人がいる。


 その想いを踏みにじるようなことを、私は言ってしまったのだ。


 どうしようもない自己嫌悪が胸いっぱいに広がり、私はただ俯くことしかできなくなる。


「……奥様」


 震える声で名を呼ばれ、顔を上げた。


 目の前には、今にも泣き出しそうな表情を浮かべたリシテアがいる。


「奥様には、この私がおります。ですから……もう二度と、そのようなことは仰らないでください」


 そっと頬に触れる彼女の手は、驚くほど温かかった。


 その温もりに触れた瞬間、張り詰めていた心が少しだけほどけていく。


 ああ……。


 私は、リシテアの気持ちまで踏みにじろうとしていたのね。


 シルだけじゃない。


 ずっと傍で支えてくれた彼女まで、深く傷つけてしまうところだった。


「ごめんなさい……リシテア」


 震える声で謝ると、彼女は安心させるように柔らかく微笑んだ。


「いいのです、奥様。何か、とても辛いことがおありになったのでしょう?」


 責めることも、問い詰めることもなく、ただ静かに寄り添うような声。


「よろしければ、お話しください。どのようなことでも構いません。必ず、お力になるとお約束いたしますから」


 その言葉に、張りつめていた糸がぷつりと切れた。


 もう、一人で抱え込まなくてもいいのだろうか。


 そんな思いが胸をよぎり、私は涙を拭う。


「……実は」


 震える唇をゆっくりと開き、私は先ほどリンカ様から告げられた衝撃の事実を、二人へ語り始めた──。
















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