生きている価値
「実はね……セルディオとの赤ちゃんができたみたいなの」
──衝撃だった。
その言葉が耳に届いた瞬間、心臓を鋭い刃で貫かれたような痛みが胸を走る。
赤ちゃん……?
リンカ様が、セルディオ様の子を……?
頭の中が真っ白になり、呼吸の仕方さえ分からなくなる。
分かっていたはずだった。
二人が毎晩のように夜を共にしている以上、いつかこういう日が訪れることくらい。
覚悟していたつもりだった。
それなのに、どこかで私は信じてしまっていたのだ。
セルディオ様の子供を産むのは私だけ。
妻である私だけに許された未来なのだと。
けれど、そのささやかな願いは、たった今、無惨にも打ち砕かれた。
「もう……私は必要ないのね」
自嘲するような呟きが、乾いた笑みとともに唇から零れ落ちる。
リンカ様がセルディオ様の後継を身ごもった以上、名ばかりの妻でしかない私は、もう何の価値もない。
後継者さえ生まれれば、リンカ様の立場は揺るぎないものとなる。
そしてセルディオ様も、もう私を妻として置いておく理由はない。
病に侵され、子も望めない妻。
そんな私と別れたとしても、世間は誰も責めはしないだろう。
そう思った瞬間、胸の奥で最後の希望が音を立てて崩れ落ちていくのを感じた。
「とにかく今日は、それを伝えに来ただけだから。詳しい話はまた今度ね」
それだけを言い残し、リンカ様は部屋を後にした。
詳しい話なんて聞きたくない。
これ以上、私に何を聞けというの。
二人がどれほど幸せなのかを?
これから生まれてくる子供の話を?
そんなもの、聞けるはずがない。
胸が締めつけられ、息が詰まる。
苦しい。
苦しいのに──心臓は止まってくれなかった。
「どうして……」
ぽつりと漏れた声は、自分でも驚くほど掠れていた。
もう、死んでしまいたい。
こんなにも苦しい思いをしながら、生き続ける意味なんてあるのだろうか。
どうして私だけが、生きなければならないの。
「こんな病気にさえ罹らなければ……私だって……」
セルディオ様の子供を授かって。一緒に名前を考えて。小さな命の誕生を心から喜び合って。
リンカ様と同じ未来を、歩めていたかもしれないのに。
「…………っ」
どうしようもなく込み上げてきた怒りをぶつけるように、自分の胸を強く拳で叩く。
鈍い痛みが走り、激しく咳き込む。
それでも構わなかった。
痛みなど、この胸の苦しさに比べれば何でもない。
セルディオ様に愛されず、子供も望めない私なんて、生きている価値すらないのだから。
「止まって……止まってよ……!」
何度も、何度も胸を叩く。
「お願いだから……もう……私を、生かさないで……!」
涙で視界が滲み、息が途切れ途切れになる。
「セルディオ様に……愛されない……私なんて……もう……っ」
鼻の奥が熱くなり、堰を切ったように涙が溢れた。
これまでどれほど絶望しても、私はただ一つの希望だけを抱いて生きてきた。
セルディオ様の妻は、私だけ。
その事実だけが、私を繋ぎ止めてくれていた。
けれど、その最後の希望さえ、今まさに奪われようとしている。
リンカ様がセルディオ様の子供を身ごもった以上、病を抱えた名ばかりの妻を、この家に置いておく理由など、どこにもない。
私はもう、本当に何も残っていなかった。




