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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第三章 半年後

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生きている価値

「実はね……セルディオとの赤ちゃんができたみたいなの」


 ──衝撃だった。


 その言葉が耳に届いた瞬間、心臓を鋭い刃で貫かれたような痛みが胸を走る。


 赤ちゃん……?


 リンカ様が、セルディオ様の子を……?


 頭の中が真っ白になり、呼吸の仕方さえ分からなくなる。


 分かっていたはずだった。


 二人が毎晩のように夜を共にしている以上、いつかこういう日が訪れることくらい。


 覚悟していたつもりだった。


 それなのに、どこかで私は信じてしまっていたのだ。


 セルディオ様の子供を産むのは私だけ。


 妻である私だけに許された未来なのだと。


 けれど、そのささやかな願いは、たった今、無惨にも打ち砕かれた。


「もう……私は必要ないのね」


 自嘲するような呟きが、乾いた笑みとともに唇から零れ落ちる。


 リンカ様がセルディオ様の後継を身ごもった以上、名ばかりの妻でしかない私は、もう何の価値もない。


 後継者さえ生まれれば、リンカ様の立場は揺るぎないものとなる。


 そしてセルディオ様も、もう私を妻として置いておく理由はない。


 病に侵され、子も望めない妻。


 そんな私と別れたとしても、世間は誰も責めはしないだろう。


 そう思った瞬間、胸の奥で最後の希望が音を立てて崩れ落ちていくのを感じた。


「とにかく今日は、それを伝えに来ただけだから。詳しい話はまた今度ね」


 それだけを言い残し、リンカ様は部屋を後にした。


 詳しい話なんて聞きたくない。


 これ以上、私に何を聞けというの。


 二人がどれほど幸せなのかを?


 これから生まれてくる子供の話を?


 そんなもの、聞けるはずがない。


 胸が締めつけられ、息が詰まる。


 苦しい。


 苦しいのに──心臓は止まってくれなかった。


「どうして……」


 ぽつりと漏れた声は、自分でも驚くほど掠れていた。


 もう、死んでしまいたい。


 こんなにも苦しい思いをしながら、生き続ける意味なんてあるのだろうか。


 どうして私だけが、生きなければならないの。


「こんな病気にさえ罹らなければ……私だって……」


 セルディオ様の子供を授かって。一緒に名前を考えて。小さな命の誕生を心から喜び合って。


 リンカ様と同じ未来を、歩めていたかもしれないのに。


「…………っ」


 どうしようもなく込み上げてきた怒りをぶつけるように、自分の胸を強く拳で叩く。


 鈍い痛みが走り、激しく咳き込む。


 それでも構わなかった。


 痛みなど、この胸の苦しさに比べれば何でもない。


 セルディオ様に愛されず、子供も望めない私なんて、生きている価値すらないのだから。


「止まって……止まってよ……!」


 何度も、何度も胸を叩く。


「お願いだから……もう……私を、生かさないで……!」


 涙で視界が滲み、息が途切れ途切れになる。


「セルディオ様に……愛されない……私なんて……もう……っ」


 鼻の奥が熱くなり、堰を切ったように涙が溢れた。


 これまでどれほど絶望しても、私はただ一つの希望だけを抱いて生きてきた。


 セルディオ様の妻は、私だけ。


 その事実だけが、私を繋ぎ止めてくれていた。


 けれど、その最後の希望さえ、今まさに奪われようとしている。


 リンカ様がセルディオ様の子供を身ごもった以上、病を抱えた名ばかりの妻を、この家に置いておく理由など、どこにもない。


 私はもう、本当に何も残っていなかった。


 


 

   


 

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