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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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小さな灯火

「ねぇ、ニーナさん! こんな所にいないで、俺と一緒に先生のところへ行こうよ! そんな酷い旦那様と一緒にいたら、長生きできるものもできなくなっちゃう。だから……お願いだよ」


 最後は懇願するような声だった。


 シルは私の手をぎゅっと握り締め、必死な眼差しで見つめてくる。


 その気持ちは、とても嬉しかった。


 けれど──私は首を横に振る。


「無理よ。私はセルディオ様と離縁できないもの」


 そう。


 セルディオ様は、醜聞になるから離縁はしないと仰っていた。


 婚姻したまま屋敷を逃げ出せば、体裁を重んじるセルディオ様は、きっと私を探さなければならなくなる。


 そして見つかった時には──逃げ出すなどという愚かな真似をした私を、決して許しはしないだろう。


 体罰を受けるかもしれない。


 それどころか、地下室へ幽閉されるようなことだってあり得る。


「私は……死ぬまで、この屋敷に居続けるしかないの……」

「そんな……」


 それに、罰が私一人で済めばまだいい。


 けれど、下手をすればシルや先生にまで累が及ぶかもしれない。


 善良な二人を、そんな目に遭わせるわけにはいかなかった。


 だから私は、シルの申し出を断るしかない。


 たとえセルディオ様にもう愛されていなくても。


 彼の心が、別の女性へ向いてしまっていたとしても。


「でも、それじゃあニーナさんは……」


 シルは目に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうな顔で私を見上げる。


 こんな幼い子を悲しませてしまう自分が、ひどく嫌だった。


 それでも、逃げることはできない。


 今のような状況を招いてしまったのは──紛れもなく、私自身なのだから。


「だったら俺、毎日ここへ診察に来るからね!」


 乱暴に涙を拭うと、シルは決意を込めてぎゅっと拳を握った。


「え……でも、あなたは先生のお手伝いがあるんじゃ──」

「そんなの、どうとでもなるよ! 無理してるニーナさんを放っておくなんて、俺にはできないから。来るなって言われても、毎日絶対に診察に来るからね!」


 それに、とシルは満面の笑みを浮かべる。


「少しでもニーナさんが笑って過ごせるように、俺が頑張るから!」


 そう言って腕まくりをすると、力強くガッツポーズを作った。


 その姿につられるように、リシテアもシルの後ろで小さくガッツポーズを作る。


「ふふっ……あなた達ったら」


 思わず笑みがこぼれた。


 こんな風に心から笑えたのは、一体いつぶりだろう。


 二人の優しさに触れたその瞬間、冷え切っていた胸の奥に、小さな灯火がともる。


 そのぬくもりは、凍えかけていた私の心を、そっと包み込んでくれるようだった。















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