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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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リンカの決意

 話が違う──。


 セルディオの冷たい瞳に見下ろされながら、アタシは思った。


 こんな事は予想外で、彼がアタシを否定するなんてあるはずがない。


 なのに今、彼はアタシを突き放し、奥様を愛していると口にしたのだ。


 アタシに愛を捧げると言ったその唇で、奥様だけを愛していると。


 嘘吐き──。


 だったら、これまでのアタシ達はなんだったの?


 蕩けるような眼差しも、甘い声も、全部作り物だったの?


 それが貴族の駆け引きってやつなの?


 分からない──。


 だってアタシは名ばかりの貴族で、本当の貴族が受けるべき教育も、貴族としての生活も知らない。


 平民に毛が生えた程度のアタシに、そんなもの理解しろって方が無理だ。


 なのにただ契約書に署名をさせるためだけに、アタシを騙していたっていうの?


 喉の奥がひゅ、と鳴った。


 視界が滲むのに、涙が落ちるより先に怒りがこみ上げてくる。


 そんなはずない。違う。違う違う違う──。


「……じゃあ、今までの言葉は全部、嘘だったっていうこと?」


 震える声が、思ったよりも静かに響いた。


 セルディオは一瞬だけ目を細め、それから淡々と答える。


「嘘ではない」

「だったら……っ!」

「だが、本心ではなかった」


 その一言で、胸の奥が冷たく沈んだ。


 本心じゃない? それのどこが嘘じゃないっていうの?


 ただ言い方を変えただけじゃない!


「……ふざけないでよ」


 気づけば唇が歪んでいた。


 「愛してるって言ったじゃない。ずっと、アタシだけを見てるって……! なのに今更本心じゃないなんて言われて、アタシはどうしたらいいのよ!」


 叫ぶように訴えた。


 けれど、セルディオの表情はぴくりとも動かない。


 冷たい、貴族の仮面。


 これが本物の貴族だというのなら、アタシはそんなものになりたくない。


 こんなにも冷たく、まるで温度のない顔で人を追い詰めるのが貴族だなんて──。


「だから、面倒を見ると言っている」

「……は?」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


 ()()()面倒を見る?


 何を言っているの、この人は。


 呆然とするアタシを見下ろしながら、セルディオは淡々と続ける。


「君を騙したことについては、僕も悪かったと思っている。だからこそ昨夜の一件には目を瞑り、今後の君の生活を保証するつもりだ。これ以上何を望む?」

「これ以上って……」


 思わず笑いそうになった。


 アタシが望むものなんて、最初から決まっている。


 ──セルディオの愛。

 

 ただ、それだけだ。


 けれど──もう気づいてしまった。


 絶対に()()だけは、アタシに与えられることはないのだと。


 彼は本当は奥様を病的なほどに愛している。


 そして、彼女の関心を引くためだけに、アタシを利用した。


 少なくとも、アタシにはそうとしか思えなかった。


 だけど彼は気づいていない。


 そんなやり方は間違っているということに。


 嫉妬させて相手の気を引こうとしても、度が過ぎれば気持ちは離れていく。


 傷つければ傷つけるほど、取り返しがつかなくなることだってある。


 ……まあ、悔しいから教えてなんてあげないけれど。


 アタシだけが傷ついて終わりなんて、絶対に嫌だ。


 このまま大人しく引き下がってなんかやるものか。


 セルディオには、アタシを騙した責任を取ってもらう。


 絶対に──。



 






 





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