未練
どうしよう、どうしたらいいの。
セルディオ様に嫌われてしまった。
今までも冷たくあしらわれてはきたけれど、あんなふうに「さよなら」なんて言われたことは、一度もなかった。
どうしていいのか分からず、ぎゅっと胸元を押さえる。
私はただ……セルディオ様とリンカ様のことを聞きたくなかっただけなのに。
私が病にかかり、彼との閨を拒むようになってからというもの、浮気を疑われていただなんて、思ってもみなかった。
公爵家お抱えの医師も、私の体調不良を認めてくれていたから、当然セルディオ様も信じてくださっているものだと思っていた。
なのに実際は違った。
セルディオ様は、ずっと苦しんでいたのだ。
理由も告げられないまま私に拒まれ続け、信じたい気持ちと疑う気持ちの狭間で、たった一人、傷ついていた。
「当然よね……」
それまで毎日のように愛し合っていたにも関わらず、ある日突然“体調不良”になって、愛し合うことができなくなった。
一体どこが悪いのか、どんな風に悪いのか、知らされることは何もなく、ただ『体調不良』とだけ言われて──。
そんな状態が何ヶ月も続けば、疑いたくなっても無理はない。
私だって、もし逆の立場だったとしたなら、きっとセルディオ様の浮気を疑っただろう。
そんな事に、なぜ今まで気づけなかったのか。
本当のことを話していれば、何か変わっていたのだろうか。
病のことを打ち明けていれば、セルディオ様は信じてくれただろうか。
けれど──。
もし病のことを知ったセルディオ様が、同情から優しくしてくれたのだとしたら。
もし、子どもを望めないかもしれない私を、責任感だけで傍に置こうとしたのだとしたら。
そう思うと、どうしても言い出せなかった。
嫌われるくらいなら、一人で耐えた方がいい。
ずっと、そう思っていたはずなのに。
結果は──こうだ。
結局嫌われ、さよならまで告げられてしまった。
離縁だけは免れることができたけれど。私のことを愛しているからじゃない。
社交界の醜聞になるのが嫌だから──ただ、それだけ。
「嫌……」
震える唇から、か細い声がこぼれた。
「嫌よ……セルディオ様……」
胸の奥が、ぎゅうっと締めつけられる。
苦しくて、痛くて、息ができない。
もう二度と、あの人は私の名前を呼んでくれないかもしれない。
私のことを、見つめてくれないかもしれない。
そう思っただけで、視界が滲んだ。
私はようやく気づいてしまった。
どれほど拒まれても、冷たくされても。
それでも私は──セルディオ様のことを、諦めきれずにいたのだと。




