リンカの執着 2
だからアタシは、決定的なものを奥様へと突きつけるべく、セルディオの屋敷へとやって来た。
本当は、縁談なんて来ていない。
父は一時の金でアタシを売り払うより、永久的に働かせた方が得だと考えているし、大して取り柄のないアタシを欲しがる金持ち貴族だって、いやしないから。
ただ、「縁談から逃げるために来た」と言って泣きつけば、セルディオが同情して屋敷に招き入れてくれると思っただけだ。
計画は、思っていた以上にうまくいった。
まず、お風呂上がりのセルディオを独り占めできたことは予想外の幸運だった。
火照った身体の方がアルコールの回りは良いと聞いていたから、それもまた好都合だった。
部屋に案内された時、その場にセルディオがいなくて、アタシ一人になったことも──。
おかげで、半分ほど彼の分の紅茶を飲み干して、代わりに媚薬入りのウィスキーを注ぐことができた。
心配なのは、セルディオがアルコールの味に気づいてしまうことだったけれど。
彼は何も気づかなかった。
アルコールは苦手で、普段からあまりお酒を飲まないと聞いていたから、単に味が分からなかったのか。それとも考え事をしていたせいで、味の違いに気づかなかったのか。
理由はどうあれ、アタシにとっては好都合だった。
紅茶のカップを置いたセルディオの頬が、少しずつ赤くなっていく。言葉は滑らかになり、警戒心も薄れていった。
その様子を見て、アタシは胸の奥でほくそ笑んだ。
罪悪感がなかったわけじゃない。
だけど、それ以上に。
もう少しで手が届くかもしれないという期待の方が、ずっと大きかった。
奥様がどれだけ愛されていようと関係ない。
セルディオがどれだけ奥様を気にかけていようと関係ない。
大事なのは、今この瞬間、彼の隣にいるのがアタシだということ。
今夜さえ乗り切れば。
決定的な事実さえ作ってしまえば。
きっとセルディオは、もう後戻りできなくなる。
そうすれば、今度こそ。
今度こそアタシだけを見てくれるはずだから。
「そうして見事、既成事実を作ることに成功いたしましたとさ」
にんまりと笑いながら、アタシはベッドの上をゴロゴロと転がり回る。
これでもう、セルディオはアタシを切り捨てられない。
だって、貴族令嬢の初めてを奪ってしまったのだ。
絶対に責任を取らされるはず。
ただ……昨夜、ベッドの中で『ニーナ』と呼ばれていたことだけは気に入らなかった。
でも、その場で訂正したら、セルディオが正気に戻ってしまうような気がして。
そして彼が正気に戻ったら、驚いてアタシから離れてしまう──そんな気がしたから、訂正することができなかった。
「奥様にはもう、愛情なんて持ってないって言ってたのに……」
彼を見ていると、どうしてもそうは思えない時がある。
確かに、愛情ではないかもしれない。
でも、もっとドロドロしていて。
胸の奥がひやりと冷たくなるような、寒気を覚える何か。
セルディオが奥様のことを口にするたび、その瞳の奥にちらつく感情の正体が、アタシには分からなかった。




