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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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リンカの執着

 セルディオが部屋を出て行ってから──アタシは一人、ベッドの中でほくそ笑んでいた。


 昨夜のことを、セルディオはあまり覚えていないようだったけど、アタシはしっかり覚えている。


 記憶がないからと約束を反故にしようとしても無駄だ。


 ──まぁ、アタシの身体中についた赤い痕が、事実を証明してくれているけれど。


 働いていた店で偶然セルディオと出会い、彼に見初められてからというもの、アタシは夢のような時間を過ごしてきた。


 なんなら一生分の幸せが、そこに凝縮されていたと言ってもいい。


 アタシは、貧乏子沢山の男爵家に生まれた。


 貴族といっても生活の質は平民とほとんど変わらない。


 家のことはすべて自分達でこなし、使用人がいる暮らしなんて物語の中だけの話だと思っていた。


 学園に通える年齢になれば、問答無用で働きに出される。


 貴族としての教養を身につける余裕なんて、どこにもなかった。


 だけど、そんなアタシの前に現れた奇跡──。


 ノヴェント公爵家の嫡男、セルディオ様。


 誰もが憧れながらも、奥様以外の女性には興味がないと噂されていたその人が、ある日突然アタシに声をかけてきた。


 最初は、自分に話しかけられているのだと気づけなかった。


 だって、住む世界が違いすぎたから。


「君、とても可愛いね。できるなら、僕と“愛人契約”を結ばないか?」


 なんて。


 最初は冗談だと思った。


 だって相手は、雲の上の存在だ。


 王都中の令嬢たちが憧れる公爵家の嫡男。


 そんな人が、たとえ契約を持ちかけるためだとはいえ、場末のカフェで働くアタシなんかに声をかけるはずがない。


 けれどセルディオ様は、それから何度も店に足を運んでくれた。


 花を贈ってくれた。


 高価なお菓子を差し入れてくれた。


 アタシの拙い話にも、楽しそうに耳を傾けてくれた。


 そうして気づけば、アタシは契約のことなんて忘れて、すっかりその気になっていた。


 セルディオ様は、他の人とは違う。


 身分なんて気にしない、優しい人なんだって。


 そしていつしか、ただ一緒にいられるだけでは物足りなくなっていった。


 恋人として隣に立ちたい。


 奥様よりも、もっと特別な存在になりたい。


 みんなに羨ましがられたい。


 セルディオ様が見つめる先には、いつだってアタシだけがいてほしい。


 一度知ってしまった優越感は、もう手放せなかった。


 それなのに彼は、どうしても奥様を気にする。


 アタシだけを見つめているようで、その視界の端にはいつだって奥様を映している。


 どうして?


 所詮アタシは契約による関係なのだと、その度に突きつけられた。


 奥様が体調を崩したと聞けば、途端に落ち着きをなくして。


 奥様が泣いたと知れば、今にも駆け出しそうな顔をする。


 そんな姿を見るたびに、胸の奥がざらついた。


 アタシじゃ駄目なの?


 アタシだけじゃ、満たされないの?


 だってアタシはこんなにも、あなたのことが好きなのに。












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