セルディオの疑念 2
いや、待て。
本当に矛盾しているのだろうか。
もしニーナが僕との関係を完全に終わらせるつもりだったのなら、そもそも昨夜の誘いを受ける必要などなかったはずだ。
体調が悪いと断れば、それで済んだ話なのだから。
それなのに、ニーナは受け入れた。
不安そうな顔をしながらも。困ったように眉を下げながらも。
それでも最後には頷いたのだ。
「まさか……」
胸の奥で、ひとつの考えが形になっていく。
ニーナは僕を待っていた。それは間違いない。
だが、それは必ずしも僕を求めていたという意味ではないのではないか。
昨夜のニーナは、どこか様子がおかしかった。
緊張していた。覚悟を決めたような顔をしていた。
まるで何か重大な話を切り出そうとしている人間のように。
「まさか……」
背筋に冷たいものが走る。
ニーナは、他の男のことを僕に告白するつもりだったのではないか。
二人きりになった時点で。夫婦として最後の夜を過ごした後で。
改めて胸の内を打ち明けるつもりだったのでは──。
「……あり得るな」
顎に手をやり、ポツリと呟く。
最早、それしか考えられなかった。
最後に僕にいい思いをさせておいて、その後で奈落に突き落とすつもりだったなんて……。
別れを切り出しやすくするためか。
それとも、罪悪感を少しでも軽くするためか。
「ニーナにしては、随分と残酷なことを考えるじゃないか……」
そんな屈辱を、この僕に味わわせるつもりだったなんて。
元々、ニーナが僕との閨を断り始めた時から、彼女の浮気を疑っていた。
当然だ。
それまで僕に従順であった彼女が、その日を境に頑なに僕を拒むようになったのだから。
他の男といつ出会ったのか。僕を拒むようになったきっかけは何だったのか。
何一つ分からない。
だが、一つだけははっきりしていた。
ニーナの意思は固かった。
僕がどれだけ気を遣っても。どれだけ我慢しても。
ニーナは一度たりとも僕を受け入れようとはしなかった。
だからこそ、僕は確信したのだ。
あの頑なさには、体調不良だけでは説明のつかない理由があるのだと。
だからこそ僕は、そっちがその気ならこっちもやり返してやろうと、愛人として利用できそうな令嬢を調べ上げ、リンカへと近づいた。
愛する者に浮気される辛さを、ニーナに教えてやろうと思って。
嫉妬する時の胸の痛みを、ニーナにも味わわせてやろうと思って。
そうすれば、ニーナも分かるはずだ。
僕がどれだけ傷ついたのか。
僕がどれだけ苦しんだのか。
そして最後には気づくだろう。自分には僕しかいないのだと。
屋敷の中でも幸せなんて感じさせてやらない。
ニーナが僕以外を愛するというのなら、とことんまで冷たくして居場所をなくしてやろうと思った。
僕以外の男と別れて、僕に縋りついてくるように。
学園にいた頃のように、ニーナは僕だけを見ていればいい。
僕だけが頼れる人間なのだと、もう一度教えてやらなければ。




