セルディオの疑念
リシテアの言葉に、胸が躍った。
昨夜ニーナは、夜を徹して僕の訪れを待っていた。しかし僕が約束通りに姿を現さなかったせいで、泣き疲れて眠ってしまった──と。
それはつまり、ニーナが僕を待っていてくれたということだ。
僕が来ると信じて。
僕との約束を大切に思って。
夫婦として関係を持たなくなってから、もう彼女の心は僕から離れてしまったのだと思っていた。だからこそ、夜会の日も勝手にいなくなってしまったのだと。
だが、そうではなかったのかもしれない。
その事実がたまらなく嬉しかった。
しかし、喜びだけでは終わらないことがある。
胸の奥には、どうしても拭えない苛立ちが残っていた。
それは──昨日の僕の要望を、ニーナが受け入れたという事実だ。
この二ヶ月間、彼女は体調不良を理由に僕を遠ざけ続けていた。
触れることも。
夫婦らしい時間を過ごすことも。
事あるごとに断られ続けてきた。
だから僕は、てっきりニーナは僕を避けているのだと思っていた。それゆえ僕も同じように、ニーナを事あるごとに避け続けてきたのだ。
なのに昨夜は違った。
困ったような顔こそしていたが、最終的には受け入れたのだ。
だったら今までの拒絶はなんだった?
本当に体調が悪かったのなら──無論、ニーナの体調不良については公爵家お抱え医師の診断のもと証明されているのだから、その事実自体を疑うつもりはないが──昨日だって無理だったはずだ。
それとも、今まではただその気になれなかっただけなのか。
もしそうだとしたら。
夫婦関係を持てないほど体調が悪いという説明は成り立たなくなる。
ではなぜ、ニーナはこれまで僕を拒み続けていた?
その答えは、一つしか思い浮かばなかった。
──僕以外に心を許した相手がいる。
──だから僕には触れられたくなかった。
胸の奥に燻り続けていた疑念が、再び鎌首をもたげる。
そして最悪なことに、その考えは以前よりもずっと現実味を帯びているように思えた。
「ふっ……やはりな……」
思った通りの結果であったことに、自嘲の笑みが漏れる。
ニーナが僕との閨を拒み始めた時、真っ先に頭に浮かんだのはそれだった。
ほぼ毎日のように僕に愛されていた彼女が、突然僕を拒み始めた理由──。
体調不良などという曖昧な言い訳で、長期間夫婦関係を拒み続ける理由なんて。
「たった一つしかないよな……」
他の男だ。それしかない。
僕以外の誰かに心を奪われた。だから僕を拒むようになった。
そう考えれば、すべて辻褄が合う。
だが、だとしたら。
朝になって泣き疲れて眠るほど、僕を待っていた理由は。
そこだけが分からなかった。
むしろ気持ちのない相手に抱かれずに済んだのだから、本来なら安堵するべきではないのか。
少なくとも、泣く理由などないはずだ。
なのにニーナは泣いた。
僕が行かなかったことで傷つき、朝まで待ち続けていた。
「なぜだ……?」
思わず呟く。
ニーナの考えが理解できない。
僕を拒みながら、僕を待つ。
僕を遠ざけながら、僕が来ないと泣く。
そんなもの、どう考えても矛盾しているではないか。




