表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/73

リシテアの怒り 2

「では、なぜ!?」


 思わず一歩踏み込む。


「わざとでないなら、なぜ奥様の元へいらしては下さらなかったのです?」


 声が震える。


 怒りのせいか、それとも別の感情のせいか、自分でも分からない。


「奥様は……昨夜、旦那様をずっと待っていらっしゃったのに!」


 どれほど緊張していたことか。


 どれほど勇気を振り絞っていたことか。


 それを思い出しただけで、胸の奥が痛くなる。


「来てくださると信じて! たとえどんなことがあろうとも、旦那様は最後には奥様を選んでくださると信じていたのに!」


 ぎゅうと、旦那様の襟を掴んだ。


「それなのに、どうして……」


 こんなの、奥様が可哀想すぎる。


「奥様は、最後まで旦那様を信じていらしたんですよ……」


 朝が来るまで、恐らく一睡もせずに。


「来てくださるって。旦那様なら約束を守ってくださるって……」


 信じて。信じ続けて。そうして、一人きりで朝を迎えたのだ。


「なのに、どうして……」


 それ以上は言葉にならなかった。


 奥様の辛い心情を考えると、喉が詰まって。


 気づけば視界が滲んでいた。


 苦しんでいたのは奥様なのに。


 それを思うだけで、私まで涙が出そうになってしまう。

 

 けれど──。


 次の刹那。


「ニーナは僕を、ずっと待っていてくれたのか……?」


 旦那様の口から漏れたのは、謝罪でも言い訳でもなかった。


 むしろ、どこか喜びを滲ませたような声。


「……は?」


 思わず眉をひそめる。


 何かがおかしい。


 今の話のどこに、そんな反応をする要素があったというのだろう。


 分からないけれど、ここで嘘を吐いても仕方がない。


「はい……。恐らくですが、夜を徹して旦那様の訪れをお待ちになっていたと思います」


 正直に答えると、旦那様の口元が目に見えて歪んだ。


「そうか……。ニーナが僕を……そこまでして……」

「旦那様……?」


 その表情に、一種の恐怖のようなものを感じ、私はそっと旦那様から手を離す。


 旦那様は、私に襟を掴まれていたことなど、まるで気にも留めていないようだった。


 それどころか、焦点の合わない目でどこか遠くを見つめている。


 その顔には、先ほどまでの動揺も罪悪感もなく。代わりに浮かんでいたのは、信じられないものを目にした人間の歓喜だった。


「ふふ……そうか……」

「だ、旦那様?」


 思わず一歩後ずさる。


 怖い。


 怒っている旦那様も恐ろしいけれど、今の旦那様はそれとは別の意味で怖かった。


「それで、ニーナは今どうしている?」


 先ほどとは打って変わって、爛々と瞳を輝かせて尋ねてくる旦那様に、私は戸惑いながら答える。


「今は……泣き疲れて眠っていらっしゃいますが……」


 それを聞いて、旦那様はとても満足げに頷いた。


「そうか、泣き疲れて……。それは当然、僕が昨夜ニーナの部屋に行かなかったことが原因なんだよね?」


 ぞわり、と背筋を悪寒が走る。


 どうしてそんなことを確認する必要があるのだろう。


 どうしてそんなに嬉しそうなのだろう。


 理解できない。


 理解できないからこそ怖かった。


「当たり前です!」


 








 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ