セルディオの焦り
僕が目を覚ました時、隣にはリンカがいた。
「なっ……リンカ!?」
なぜ──どうして、という単語で、頭の中が埋め尽くされる。
僕は昨日、ニーナと久しぶりに子作りをしようとして、でもその前にリンカからの訪問を受けて、それから……。それから、どうした?
記憶が曖昧で思い出せない。応接室でリンカと会話をしたような気がするが……その後のことは全くと言っていいほど覚えていない。
いや……下半身に妙な重だるさがある。
喉が渇いているし、頭も鈍く痛む。
まるで酒にでも酔わされた翌朝のような感覚だった。
だが、昨夜はそんなに酒を飲んだ覚えはない。それどころか──肝心の記憶が抜け落ちている。
これは、もしかして……。
ちらりと横を見やり、眠るリンカの顔を見て、僕は激しく頭を横に振った。
まさか、違う! 僕がニーナ以外の女と関係を持つはずがない! こんなのは間違いだ! ただ単に二人で同じベッドで眠ってしまっただけのことなんだ!
そんなことはあり得ないと心のどこかで声がするものの、僕はそれを聞こえないふりをする。
「僕がニーナを裏切るはずがない……」
僕が愛しているのはニーナだけだ。たとえ酒や薬を盛られようとも、身体がそれを裏切るはずはない。
そう何度も自分に言い聞かせる。
けれど、その言葉はまるで自分自身を納得させるための言い訳のようにしか聞こえなかった。
「ん……セルディオ……?」
そこでリンカが目を覚まし、掛布から這い出してくる。
その姿を見た瞬間──僕は驚愕に目を見張った。
「リ、リンカ! その身体は……!?」
息が止まった。
白い肌に残る無数の赤い痕。
それは見間違いようもなく、男女の営みを連想させるものだった。
僕の視線が震える。
頭の中が真っ白になった。
否定したい。
そんなはずはないと叫びたい。
だが、目の前にある光景はあまりにも生々しく、都合の良い言い訳を許してはくれなかった。
昨夜の記憶はない。
それなのに、身体には確かに倦怠感が残っている。
そしてリンカは今、僕の隣で眠っていた。
偶然だと言い切るには、状況が揃いすぎていた。
「ああ、これ? セルディオがしつこくって参っちゃった。やめてって何度言ってもやめてくれなくて……。でもアタシ、嬉しかったぁ」
リンカがくすりと笑う。
その笑みを見た瞬間、胸の奥に言いようのない不快感が広がった。
違う。
何かがおかしい。
そう思うのに、その”何か”が分からない。
まるで濃い霧の中に閉じ込められたように、肝心な部分だけが見えなかった。
「し、しかし僕には……」
記憶がない──と言いかけて、途中で口を噤む。
次期公爵家当主ともあろうものが、酒や薬を盛られたぐらいのことで記憶をなくすなど、恥でしかない。
たとえ相手がリンカといえど、知られたら弱みを握られるのと同義だ。
だから僕は、口を閉ざした。
──だがその沈黙こそが、彼女の言葉を認めたも同然だった。




