裏切り
カーテンの隙間から、陽の光が差してくる。
「うぅん……」
それが眩しくて、私は身体の向きを変えた。
その際、なんとなく腕を伸ばす。けれど予想していたものが、そこにはなくて。
「あれ……?」
ゆっくりと目を開けた。
いつもだったら、隣にセルディオ様が眠っているはずなのに。
と、そこまで考えた瞬間、私は昨夜、彼が寝室に姿を現す前に自分が意識を失ってしまったことを思い出した。
あの時彼は、突然やってきたリンカ様の相手をしに行っていて……それからどうなったのかしら。
彼がいたはずの場所に手を伸ばす。
けれど返ってきたのは、ひやりと冷たいシーツの感触だけだった。
ベッドを使った様子もない。
その事実に、胸の奥が小さくざわつく。
──もしかして、昨夜セルディオ様はここへ来なかったのだろうか。
だとしたら、一体どこで夜を明かしたのだろう?
不安に脈打つ心臓を押さえながら、リシテアを呼ぶためにベルを鳴らす。
「奥様、おはようございます」
すぐにやってきたリシテアに、昨夜のセルディオ様のことを尋ねた。──途端に、目を逸らされる。
「リシテア……?」
「奥様、本日は奥様のお好きなものを朝食にご用意させました。いっぱい食べて、少しでも元気を取り戻しましょうね」
話を逸らそうとする彼女に、胸のざわめきが大きくなった。
「リシテア!」
思わず声が強くなる。
「お願い……リシテア。昨夜セルディオ様がどうなさったのか、教えて……?」
尋ねると、彼女はとても辛そうに目を伏せた。
それからそのままの状態で、そっと事実だけを口にする。
「旦那様は……昨夜、ドラジェ男爵令嬢と二人きりでお過ごしになられました……」
「…………っ!!」
ショックだった。
同時に“やはり”という気持ちもあった。
しかも、どうしてこのタイミングで──と。
セルディオ様との子供を作るため、万全の状態で迎えようとしていたその日に、どうして──と。
「酷いわ……!」
一瞬で涙を溢れさせた私に、リシテアが寄り添ってくれる。
「私は……セルディオ様のためだと思って……」
これでは、なんのために覚悟を決めたのかが分からなくなってしまう。
「彼との子供が欲しくて……また昔みたいに笑い合いたくて……」
涙がぽろぽろと零れる。
「だから私……苦しい治療だって頑張っているのに……」
声が震えた。
どうして。
どうして、あの人は──。
「奥様……」
「こんなもの……」
昨日リシテアから渡された薬包を握りしめ、グシャリと潰す。
握り込んだ手の中で薬包が歪み、白い粉がこぼれ落ちた。
「こんな……こんなものまで飲もうとしていたのに、私は……。私は……うっ……」
喉が詰まる。
「子供っ……だけ……じゃっ……」
その先を口にしようとしても、嗚咽が邪魔をして声にならなかった。
私はただ、セルディオ様との未来を諦めたくなかっただけなのに。
もう一度、昔みたいに笑い合いたかっただけなのに。
次から次へと流れ落ちる涙を拭うこともなく、私はいつまでも泣き続けていたのだった。




