隠す努力
柔らかな陽光が庭を照らしている。
あの日、病の宣告を受けた日も、こんな穏やかな日だった気がした。
「ねえ、リシテア」
「はい」
「私ね、本当は怖いのよ」
ぽつりと零した言葉に、リシテアが息を呑む。
こんな弱音を吐くのは久しぶりだった。
「このままセルディオ様の心が離れてしまうことも」
言葉を切る。
胸の奥がじくりと痛んだ。
「子どもを授かれないまま終わってしまうことも」
そして。
「いつか本当に、私が必要ではなくなることも」
静かな告白だった。
けれど、ずっと胸の奥に押し込めてきた本音だった。
次期公爵夫人として、誰にも弱さを見せないように気丈でいようとしてきた。
それでも時折、自分でも抱えきれないほどの不安が押し寄せてくる。
だから──。
「せめて、できることは全部やってみたいの」
そう言って手の中の薬包を見つめる。
「結果がどうなるかは分からない。でも何もしないまま諦めるのだけは、きっと後悔すると思うから」
たとえそれが、自分の命を縮める結果になったとしても。
このまま何もしないで日々を生きていくより、少しでも充実した毎日を過ごしたかった。
最後にもう一度、セルディオ様と心を通い合わせたい。彼との子供を作り、二人で子供について語り合いたい──。
それが私の切なる願いだったから。
「ですが奥様、それでもし奥様がお倒れにでもなったら……その時は今度こそ、ご病気のことを隠し通せないかもしれませんよ」
リシテアが、不安そうに眉根を寄せながら口にした。けれど、そんなことは最初から承知の上だった。
公爵家お抱えの医師とて、やぶではない。今までは運よく発覚を免れていただけで、彼は優秀な医師だ。
もし屋敷の中で倒れれば、今度こそ病の存在を知られてしまうだろう。
それでも──私は諦めたくなかった。
「その時はその時よ。今診てもらっている先生に、最大限隠す努力をしてもらって……それでも駄目だった時は、腹を括るしかないわ」
「そこまで……!? なぜそこまでして病を隠さなければならないのです? せめてお抱えの医師様には本当のことを話しても──」
「駄目よ!」
リシテアの言葉を、勢いよく遮った。
「駄目よ……。公爵家の医師の方は、セルディオ様の味方だもの。いくら私が口止めしたところで、彼にだけは話してしまうわ。私の身体のこととなれば、なおのこと……」
もしも私の容体が急変して死に至るようなことがあった場合、私の病について知っていたかどうかで医師の今後の扱いが変わる。本当に知らなければ、それはそれで“病を見抜けなかった”という問題にはなるが、そこまで大きな問題にはならない。
けれど、病を患っているのを知っていて雇い主に黙っていた場合──それは明確な裏切り行為だ。
公爵家ほどの権力を持つ相手であれば、最悪の場合、医師としての地位や名誉を失うことだってあり得る。
「私のせいで、医師の方の人生を台無しにするようなことにでもなったら……そんなの、あまりにも申し訳ないもの」
「奥様……」
俯く私にリシテアは、言葉を失ったようにこちらを見つめた。




