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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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諦めたくない

「ですがもし、ご懐妊のせいで、奥様のご病気が悪化するようなことにでもなったら……!」


 そこでリシテアは言葉を詰まらせた。


 強く握り締められた拳が、小刻みに震えている。


「私は……私は、そのようなことになってほしくありません」


 掠れた声だった。


 怒っているわけではない。ただ必死に堪えているのだと分かる声。


「お世継ぎが大事なのも、旦那様とのお子が欲しいというお気持ちも分かります。ですが、それで奥様のお身体を犠牲になさるなど……」


 とうとう耐え切れなくなったのか、リシテアはぎゅっと唇を噛み締めた。


「そんなの、私は嫌です」

「リシテア……」


 言い切った彼女の言葉に、胸が温かくなる。


 彼女がいるから、私は今までやってこられた。彼女がいるから、セルディオ様に冷遇されても耐えられた。


 彼女がいるから……どんなに辛い思いをしようとも、子供を産む選択ができる。


 尤もその選択は、リシテアが一番望まないものかもしれないけれど。


「奥様がいなくなってしまわれたら、私は……」


 彼女はその先を言うことはできなかった。


 代わりに俯いた肩が、わずかに震える。


 私のことを、本気で心配してくれているのだ。


 その事実が胸に染みて、思わず薬包を握る手に力が入った。


「ありがとう、リシテア」


 静かにそう告げると、彼女は弾かれたように顔を上げた。


 何かを期待しているかのように光る瞳に、申し訳なさが募る。


「でもね。それでも私は、諦めたくないの」


 たとえ僅かな可能性でも。


 セルディオ様との未来を諦めなくて済むのなら。


 もう少しだけ、頑張ってみたかった。


「奥様……うぅっ……」


 堪えきれず、泣き出してしまったリシテアに、私は優しい瞳を向ける。


 少し前までは、私の方が泣き虫だった。私ばかりがリシテアに甘やかされて、慰めてもらっていた。


 けれど今は違う。


 皮肉にも、病気を患ってから私は強くなった。強くならざるを得なかった。


“可哀想な私”を演じて生きていくのは、性に合わない気がしたから。


「でも、どんなに強くなっても、心が傷つかないわけじゃないのよね……」


 最初は自分の心を守るために強くなろうとした。


 セルディオ様に冷たくされた痛みから心を守るため、彼がリンカ嬢に向ける優しさから目を逸らすため、心を強く持って、次期公爵夫人として相応しく、その場に立ち続けようとした。


 けれど、それは決して痛みを感じなくなったということではなかった。


 傷つかないようになったわけでも。


 悲しくなくなったわけでもない。


 ただ、人前で泣かなくなっただけだ。


 涙を堪える術を覚えただけ。


 胸を刺すような痛みを感じても、何事もない顔で微笑む方法を身につけただけだった。


「奥様……」


 リシテアが心配そうに私を見つめる。


 私は小さく微笑み、窓の外へ視線を向けた。














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