最後の希望
「閨の直前に飲むお薬はこれ。それからこれは──」
自由に外出できない私に代わり、医院へと行ってきてくれたリシテアの説明により、私は薬の使用方法を覚え込んでいく。
種類は然程多くない。けれど薬というものは、少しでも種類を間違えたり、タイミングを逸してしまえば、途端に効力を失ってしまうものだから。順番、飲む量、決して間違えることのないように、何度も二人で確認して照らし合わせていく。
「それからこれは、奥様がご所望されたお薬なのですが……」
そこで不意にリシテアの言葉が止まった。
「どうしたの?」
聞けば、薬包を掴むリシテアの手が、わずかに震えた。
まるで、私にそれを渡すことを拒んでいるかのように。
「リシテア?」
何かあったのかと再度名前を呼べば、彼女はハッとして包みをそっと差し出してきた。
「こちらが“妊娠しやすくなる”薬効を秘めたお薬の包みでございます。ただ……正直こちらは、あまりお飲みになられない方がよろしいかと」
「え、どうして?」
これこそが、今の私に一番必要なものなのに。
セルディオ様との絆を取り戻すため、私と彼との架け橋となりうる可能性を秘めた、たった一つのものなのに。
わけが分からず首を傾げると、リシテアは何度か躊躇うように視線を彷徨わせた後、ゆっくりと口を開いた。
「……そのお薬は、確かに懐妊を助ける効果が期待できるそうです」
「なら──」
「ですが、奥様のお身体への負担も決して小さくないと、医師の先生がおっしゃっていました」
その言葉に、思わず口を噤む。
「今の奥様は、お薬のおかげでなんとか体調が落ち着いている状態です。そこへ無理に懐妊をということになれば、かえって病気を悪化させてしまう危険性がある、と……」
その言葉に、思わず薬包へ視線を落とす。
薄い紙に包まれたそれは、とてもそんな危険なものには見えなかった。
「もちろん、毒というわけではありません。ですが、今の奥様のお身体で常用することを、先生はあまり勧めておられませんでした」
「そう……」
胸の奥が僅かに沈む。
けれど、それでも。
私はそっと薬包を握りしめた。
「それでも私は、飲みたいわ」
「奥様……!」
リシテアが悲鳴のような声を上げる。
けれど私は首を横に振った。
「分かっているの。あなたが心配してくれていることも、お医者様が反対なさる理由も」
それでも諦められない。
諦めてしまったら、本当に何も残らない気がした。
「私はセルディオ様の妻だもの」
震えそうになる声を必死に押さえ込む。
「旦那様との子どもが欲しいの」
それは妻として当然の願いで。
同時に――離れてしまった彼の心を繋ぎ止めることのできる、最後の希望でもあった。




