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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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リシテアの羞恥

「奥様を助けてください!」


 私は、通い慣れた医院の扉を開くなり、そう叫んだ。


「どうか、奥様を助けてください! このままでは、奥様が死んでしまいます! そうなったら、私はどうすればいいのか……」


 それ以上は言葉にならなかった。


 奥様が死ぬ──そう考えただけで、胸が締め付けられたかのように苦しくなったから。


 唇を噛み締め、必死に涙を堪える。


「……リシテアさん?」


 その時、奥の部屋から医師の先生が姿を現した。


 普段とは違うであろう私の様子に、こちらを見るなり眉を顰める。


「どうしました。何があったのです?」


 すぐに近づいてくる先生の声音は穏やかだったけれど、その表情には明らかな緊張が浮かんでいて。


「先生! 奥様が……」


 私は縋り付くようにして先生の腕を掴み、かいつまんで今回の事情を説明した。


 旦那様が奥様に乱暴しようとしたこと。それを私が庇ったせいで、閨を強要される羽目になったことなど……。


 それを黙って聞いていた先生の表情は、徐々に緊迫したものへと変わっていった。


「……なるほど」


 低く呟いてから、重い息を一つ吐く。


「それは厄介ですね」

「ですよね!? どうしましょう……」


 涙でぐっしょりと濡れたハンカチを握りしめながら、私は先生を見上げる。


 普通の医師なら、どうにもできないかもしれない。けれどこの先生なら、なんとかしてくれるかもしれないと思って。


 希望を持って先生の顔を見つめていると、彼は私の肩に、ぽん──と優しく手を置いた。そして、不安を和らげるように小さく微笑む。


「大丈夫ですよ。厄介ではありますが、手がないわけではありません」

「本当ですか!?」


 パッと顔を輝かせたものの、刹那──興奮のあまり先生に近づきすぎていたことに気づいた。


「も、申し訳ありません……」


 慌てて手を離し、一歩後ずさる。


 いくらなんでも、近づきすぎた。いくら奥様のことが心配だったからって、あんな風に先生に縋り付くなんて。変な女と思われなかっただろうか。


 羞恥で顔を赤らめていると、そんな私に先生はなんでもないことのように、穏やかな声でこう言った。


「構いませんよ。患者さんのご家族は、みなさん似たような反応をなさいますから。それだけ奥様のことを大切に思っておられるのでしょう? 何も恥ずかしがることはありませんよ」

「そ、そうですか。ありがとうございます……」


 とはいえ、あそこまで男性に近づいたことがなかった私は、それでも恥ずかしくて。


 その後は先生が一時的な薬を出してくれたり、奥様への注意事項を紙に書き記したりしてくれていたのだけれど。先ほどのことを思い出すたび顔が熱くなってしまい、私は最後まで先生の顔を真っ直ぐ見つめることができなかった。




 

 








  

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