リシテアの羞恥
「奥様を助けてください!」
私は、通い慣れた医院の扉を開くなり、そう叫んだ。
「どうか、奥様を助けてください! このままでは、奥様が死んでしまいます! そうなったら、私はどうすればいいのか……」
それ以上は言葉にならなかった。
奥様が死ぬ──そう考えただけで、胸が締め付けられたかのように苦しくなったから。
唇を噛み締め、必死に涙を堪える。
「……リシテアさん?」
その時、奥の部屋から医師の先生が姿を現した。
普段とは違うであろう私の様子に、こちらを見るなり眉を顰める。
「どうしました。何があったのです?」
すぐに近づいてくる先生の声音は穏やかだったけれど、その表情には明らかな緊張が浮かんでいて。
「先生! 奥様が……」
私は縋り付くようにして先生の腕を掴み、かいつまんで今回の事情を説明した。
旦那様が奥様に乱暴しようとしたこと。それを私が庇ったせいで、閨を強要される羽目になったことなど……。
それを黙って聞いていた先生の表情は、徐々に緊迫したものへと変わっていった。
「……なるほど」
低く呟いてから、重い息を一つ吐く。
「それは厄介ですね」
「ですよね!? どうしましょう……」
涙でぐっしょりと濡れたハンカチを握りしめながら、私は先生を見上げる。
普通の医師なら、どうにもできないかもしれない。けれどこの先生なら、なんとかしてくれるかもしれないと思って。
希望を持って先生の顔を見つめていると、彼は私の肩に、ぽん──と優しく手を置いた。そして、不安を和らげるように小さく微笑む。
「大丈夫ですよ。厄介ではありますが、手がないわけではありません」
「本当ですか!?」
パッと顔を輝かせたものの、刹那──興奮のあまり先生に近づきすぎていたことに気づいた。
「も、申し訳ありません……」
慌てて手を離し、一歩後ずさる。
いくらなんでも、近づきすぎた。いくら奥様のことが心配だったからって、あんな風に先生に縋り付くなんて。変な女と思われなかっただろうか。
羞恥で顔を赤らめていると、そんな私に先生はなんでもないことのように、穏やかな声でこう言った。
「構いませんよ。患者さんのご家族は、みなさん似たような反応をなさいますから。それだけ奥様のことを大切に思っておられるのでしょう? 何も恥ずかしがることはありませんよ」
「そ、そうですか。ありがとうございます……」
とはいえ、あそこまで男性に近づいたことがなかった私は、それでも恥ずかしくて。
その後は先生が一時的な薬を出してくれたり、奥様への注意事項を紙に書き記したりしてくれていたのだけれど。先ほどのことを思い出すたび顔が熱くなってしまい、私は最後まで先生の顔を真っ直ぐ見つめることができなかった。




