セルディオの苛立ち
嫉妬された訳ではなかった──。
それを自覚した途端、心の中に鉛のようなものが沈んだ。
久しぶりに抱きしめたニーナが、僕の身体に腕を回し返してこないことも、じわじわと精神を削っていく。
あれだけリンカと親しくして見せたのに、彼女はどうしてしまったんだろう。
以前のニーナなら、僕が他の女性と親しくするだけで不安そうな顔をしていたのに。
今は違う。怒りもしない。縋りもしない。嫉妬さえしてくれない。
身体を重ねなくなってから、日に日にニーナが離れていくような気がした。
まるで少しずつ、僕への想いを失っていくみたいに。
そんなのは嫌だ──!
「……ニーナ」
「……っ!」
無理やり彼女の唇を塞ぎ、そのままベッドへ身体を横たわらせ、服を乱す。
いくら体調不良といったって、少しぐらいなら問題ないはずだ。公爵家お抱えの医師も、「無理をさせなければ問題ありません」と言っていた。
それに僕達は夫婦だ。夫婦が触れ合うことの何が悪いというんだ。
そう思い、ニーナのドレスの中に手を入れた瞬間だった。
「おやめ下さい!」
悲鳴のような声が響く。
同時に、突然後ろから何者かが僕の腰にしがみついてきた。
「やめて下さい! 奥様は……っ!」
グイグイと力任せに引っ張られ、僕は半ば強引にニーナから引き離される。
振り返れば、そこには鬼気迫る表情のリシテアがいた。
「リシテア、お前──」
「奥様はお身体を悪くしているのですよ! なのにどうして、そのような真似ができるのですか!」
まるで僕が悪いことをしたとでも言うかのように、リシテアはニーナを庇うように僕の前に立ち塞がり、鋭くこちらを睨みつけてくる。
こいつ……。
ニーナを大切に思っているのは分かるが、少々出過ぎではないか?
僕は夫で、ニーナは妻だ。夫婦の触れ合いに、なぜ使用人が口を挟む?
ニーナ付きだからといって、近頃は少し甘やかしすぎたかもしれない。
不快感に眉を顰め、僕は小さく舌打ちした。
「リシテア、私は大丈夫だから……」
生意気な侍女の背後で、ニーナが服を直しながら起き上がり、そっと顔を覗かせる。
青ざめた顔をしていたが、その瞳にはリシテアを案じる色が浮かんでいた。
どうしてそこで自分の身より侍女を心配するんだ。
気に入らない。
それから彼女は、僕に向かって丁寧に頭を下げた。
「セルディオ様、彼女は私を心配してくれただけですので、どうか許して差し上げてください……」
「奥様!? どうして……」
まさかニーナが謝るとは思っていなかったのだろう。
リシテアは驚いた顔をしてニーナを振り返った。
だが──僕がリシテアを許すかどうかは、僕が決めることだ。
せっかくの数ヶ月ぶりの夫婦の時間を、彼女に台無しにされたのだから。
僕は腕を組み、二人を見下ろした。
「いいだろう」
ゆっくりと口を開く。
「だが、許してほしいというのなら条件がある」




