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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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最悪な一言

「……どうぞお入りになって。大したおもてなしは出来ないと思いますが……」


 つい舞い上がってしまいそうになる気持ちを抑え込み、冷静な態度でセルディオ様を室内に招き入れる。


 いきなり頬を打たれた時はどうしようかと思ったけれど、彼は自分の非を認め、こうして謝りに来てくれた。


 それが嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 最近は顔を合わせても必要最低限の会話しかなかった。


 こうして彼が自ら私の部屋を訪ねてくれたのは、一体いつぶりだろう。


「リシテア、セルディオ様にお茶を──」


 言いかけた所で、彼がそれを遮った。


「茶はいらない。代わりに冷たい水と氷を持ってきてくれ」


 そう言うが早いか、自らは私の傍らへと腰を下ろす。


 それから、優しい手つきで私の左頬にそっと濡れタオルを当ててきた。


「先ほどはすまなかった……」


 後悔の滲む声で言い、セルディオ様は表情を歪ませる。


「君が僕に何も言わずに外泊したことなんてなかったから、気が動転してしまって……。昨日の夜会でもそうだ。いつもなら僕に何かしら一言残していくのに、何も言わずにいなくなってしまったから……」

「それは、あの……。急に体調が悪くなってしまって……」


 説明するなら今だ──と思った。


 けれどセルディオ様は私のセリフに被せるように、言葉を続けていく。


「じゃあ、何も言わずに庭園に出て行ってしまったのはどうしてだい? そういう時も、いつもはきちんと言ってくれていただろう?」

「それ……は……」


 急に言葉が継げなくなった。


 まさか『貴方とリンカ様が一緒にいるのを見ているのが嫌だったから』などという幼稚なセリフが言えるはずもない。


 この場合、なんと言うのが正解なのか──考えていると、左頬に当てられたタオルを押さえるセルディオ様の指先に、わずかに力がこもった。


「ニーナ……理由が言えないのか?」


 冷静を装ってはいるものの、その声には抑えきれない苛立ちが含まれている。


 このままではいけない──。


 そう思うも、うまい言い訳が思いつかなくて。


 沈黙が長引くほど、セルディオ様の視線は鋭さを増していく。


 何か言わなければ。


 焦った私は──最悪な一言を口にした。


「私はただ……あれ以上あの場所に居たくなかっただけです」

「……っ!」


 刹那、頬に当てられていたタオルごと、セルディオ様の手に強い力がこもった。


「いたっ……!」


 冷えた布越しとは思えない痛みに、思わず悲鳴のような声が漏れる。


 すると彼は、ハッと我に返ったように手を離した。


 支えを失ったタオルが、べちゃりと湿った音を立てて床へ落ちる。


 セルディオ様はそのタオルと私の顔を見比べると、苦しげに唇を噛み締めた。













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