捜索 2──セルディオ
勢いよく立ち上がり、机に拳を叩きつける。
鈍い音と共に書類が床へ散らばった。
「ニーナが僕から逃げるはずがない!」
荒い息を吐きながら叫ぶ。
そうだ、逃げるはずがない。
あれほど愛してやったのに。
あれほど大切にしてやったのに。
ニーナは僕の妻だ。僕を愛している。
僕の傍にいるのが当然で。僕の許可なくどこかへ行くなどあるはずがない!
「そうだ……」
知らず唇が歪む。
「ニーナは誰かに拐かされたんだ」
そう考えれば全て辻褄が合った。
庭園から姿を消したことも。一晩経っても帰ってこないことも。何の連絡もないことも。
「そして、その犯人は……」
脳裏に一人の女の顔が浮かんだ。
「リシテアと繋がっているに違いない」
グシャリ──。
手元に残った書類が握り潰される。
最近のリシテアは妙だった。
僕を見る目に、以前のような敬意を感じられなくなっていた。まるで、敵を見るような──鋭い視線を感じたことが、何度もあった。
あの女は、ニーナに余計なことを吹き込んでいたのではないか。
「リシテアのやつ……姑息な真似を……!」
ニーナだって馬鹿ではない。善悪の判断くらい自分でできる。
だが、その判断を惑わす人間がいたとしたら──。
毎日のように傍にいて、耳元で囁き続ける人間がいたとしたら──。
「誰か! 誰かいないか!」
怒声にも近い声を張り上げる。
すると扉が勢いよく開き、侍従が顔色を変えて飛び込んできた。
「は、はい。お呼びでしょうか」
「ギルドに連絡して、リシテアを指名手配しろ。容疑は、ノヴェント次期公爵夫人の誘拐教唆だ」
「は……?」
侍従が呆然と目を瞬かせる。
まるで自分の耳を疑ったかのような反応だった。
「聞こえなかったのか?」
「い、いえ……ですが、それは……」
躊躇いを見せる侍従に、僕はわざとらしく大きな音で『チッ』と舌を鳴らした。
途端に、侍従の肩がびくりと震える。
「何を躊躇う必要がある?」
苛立ちを隠さず睨みつけた。
「公爵家の次期夫人が行方不明なんだぞ。疑わしい人間を追うのは当然だろう」
「し、しかし……」
「それともお前は、リシテアが無関係だとでも言うのか?」
問い詰めると、彼は小さく「そうは言っておりませんが……」と消え入りそうな声で言った。
「ですが、確証がないのもまた事実ですし、このことが変に他の者の耳に入って、公爵家の醜聞にでもなるようなことがあれば……」
「その時には責任をとって当主に代替わりしてもらえば良いだろう」
さらりと言うと、侍従は何度か目を瞬いた。
「え……?」
まるで何を言われたのか理解できない、とでも言いたげな反応だ。
まったく。先ほどから何をそんなに驚く必要がある。
その様子に、僕は鼻で笑った。
「ちょうど良い機会だ。いつまでも隠居同然の人間が当主の椅子に座っている方がおかしい。分かったら、とっととギルドへ──」
行ってこい──と言おうとした瞬間だった。
執務室の扉が勢いよく叩かれる。
その音に、僕は弾かれたように顔を上げた。
まさか。
ようやく見つかったのか。
ニーナが──。




