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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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リシテアの祈り

 屋敷の混乱に紛れ、なんとか屋敷を抜け出した私は、奥様が待つ医院へとわき目もふらず走っていた。


 早く、早く、早く──奥様の無事な姿をこの目で確かめたい。


 その一心で、女性が人前を走るなどはしたないという常識さえ、とうに頭から吹き飛んでいた。


 早く、早く、早く──。


 息は上がり、胸は苦しい。それでも足を止める気にはなれなかった。


 一歩がまるで百歩のように遠い。奥様と並んで歩いた時にはあっという間だった道が、今日はどこまでも長く続いているように思える。


 奥様、早くお会いしたい……。


 たった一晩お姿を見なかっただけだというのに、もう何日も、何ヶ月も離れていたような気さえした。


 奥様。


 奥様。


 どうかご無理をなさらないでいて下さい──。


 祈るように心の中で呼び続けていると、やがて視界の先に目当ての医院が見えた。私は最後の力を振り絞って駆け寄ると、勢いのままに扉を開け放つ。


「奥様!」


 瞬間、中にいた二人が、弾かれたようにこちらを向いた。


「お、おお……なんだ、君か」

「び、びっくりした~……」


 いつも奥様を診てくださっている医師の方と、朝方に奥様からの文を届けてくれた少年。


 二人の反応を見て、相当驚かせてしまったらしいと気づく。


「す、すみません……」


 途端に頬が熱くなり、小さな声で謝ると、医師の方は優しい笑顔で頷いてくれた。


「構いませんよ。ご夫人を心配していらしたのでしょう? ご夫人は、貴女のように慕ってくださる方がいて幸せですね」

「あ、ありがとうございます……」


 まさかそんな風に言ってもらえるとは。


 予想外の言葉に、私はますます頬に熱を感じた。


 けれど、それもほんの一瞬だけのこと。


 次の刹那には、私の視線は落ち着きなく室内を彷徨っていた。


 奥様はどこ?


 無事なの?


「そ、それで奥様は……」


 周りを見回しながら尋ねると、それまで黙って座っていた少年が、ピョン!──と立ち上がり、奥の廊下を指差した。


「こっちだよ!」 


 どうやら、奥様のもとまで案内してくれるらしい。


 少年は先頭に立って進むと、やがて幾つもある部屋の中の一つのドアの前で止まった。


「先生の医院は大きいからね。療養用の部屋がいくつもあるんだ。その中でも、この部屋の豪華さはちょっとしたもんなんだぜ」

「まあ、そうなの。奥様に気を遣ってくれたのね。ありがとう」


 自慢げに言う少年を微笑ましく思いながらも、私は待ちきれずドアノブに手をかけようとする。が、寸前のところでなぜか少年に遮られた。


「あら……?」

「ちょっと待って! 面会はお姉ちゃんが起きてる時だけって先生に言われてるから、先に起きてるかどうか確認しないと……」


 そう言って、少年は慎重な動作でドアノブにそっと手をかける。けれど──。


「起きてるわ。シルの声が大きいから、眠ってなんていられないわよ」


 と言う声が、部屋の内部から聞こえてきた。


 その声を聞いた瞬間、胸が大きく跳ねる。


 聞き間違えるはずもない。ずっと会いたかった人の声だ。


「奥様……!」


 思わず零れた声は、自分でも驚くほど震えていた。















 

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