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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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セルディオの焦燥

「ニーナはまだ見つからないのか!」


 バン!──と執務机を力一杯叩きながら、僕は怒鳴った。


 執務室に集められた使用人達が、びくりと身体を震わせる。


「もう一晩だぞ! まる一晩経って、まだ彼女を見つけられないなんて……お前達は一体何をやっているんだ!」


 ダン、ダン!──と叩きつけるように何度も机を叩く。 


 目が覚めたら、ニーナがいつも通り隣で眠っていると思っていた。使用人には扉に鍵をかけろと言ったものの、妻が帰っていない以上、本気でそんなことはしないだろうと踏んで。


 なのに──今朝起きたら、ニーナは隣にいなかった。彼女が普段寝ている場所も、冷え切ったままで。


 ニーナは昨日、家に帰らなかった……?


 そう思い至った瞬間、血の気が引いた。だが同時に、胸の奥から激しい怒りが込み上げてくる。


 なぜ戻らなかった。なぜ僕に何も言わなかった。


 いや、それとも──戻れなかったのか?


 彼女は自ら姿を消したのか。それとも誰かに拐かされたのか。


 どちらにしろ、昨晩ニーナを庭園に残して去ってからというもの、彼女の姿を一度も見ていなかった。


 リンカとのダンスを終えた後、僕は急いで彼女を探した。会場内はもちろん、庭園や廊下、休憩室に至るまで隈なく捜索させたし、自分でも探した。が、どこにもいなかった。


 まるで最初から存在しなかったかのように、ニーナは跡形もなく消え失せていたのだ。


 あり得ない──と思った。


 大の大人が誰にも知られず姿を消すなど、常識的に考えてあるはずがない。


 まして彼女は次期公爵夫人だ。もし拐かされたとするならば、とっくに犯人から要求の連絡があってもいいはずだった。


 それなのに、一晩が過ぎても何の音沙汰もない。文の一通すら、届いた形跡はないと言う。


 手掛かりはおろか、彼女を見たという証言すら碌に集まらなかった。


 理解できない。


 まるでニーナだけが、この屋敷から綺麗さっぱり消えてしまったかのようで。


「ニーナ……一体どこに……」


 整った髪をグシャリと握りつぶし、頭を抱えた。


 ニーナ……君がいなければ、僕は──。


「どこにいるんだ……」


 必死に考える。だが、何も思い浮かばない。


 ニーナが自分から屋敷を飛び出す姿など、想像もできなかった。


 彼女は普段から屋敷にこもり、読書や裁縫などをして過ごしているような人間だ。


 考えても、行きそうな場所など一つとして思い当たらない。


「だとしたらやはり、拐かされたのか……?」


 だが、その時だった。


 ふと、一人の顔が脳裏をよぎる。


 ニーナ付きの侍女──リシテア。


 あの女は誰よりも長くニーナの傍にいた。


 もしニーナが何かを考えていたのなら。もし誰にも話していない秘密があるのなら。


 あの女だけは知っているかもしれない。あの女なら、何か隠しているかもしれない。


 そう思った途端、胸の奥に渦巻いていた焦燥が僅かに薄れた。


 これでようやく手掛かりが掴める。


 








 


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