セルディオの焦燥
「ニーナはまだ見つからないのか!」
バン!──と執務机を力一杯叩きながら、僕は怒鳴った。
執務室に集められた使用人達が、びくりと身体を震わせる。
「もう一晩だぞ! まる一晩経って、まだ彼女を見つけられないなんて……お前達は一体何をやっているんだ!」
ダン、ダン!──と叩きつけるように何度も机を叩く。
目が覚めたら、ニーナがいつも通り隣で眠っていると思っていた。使用人には扉に鍵をかけろと言ったものの、妻が帰っていない以上、本気でそんなことはしないだろうと踏んで。
なのに──今朝起きたら、ニーナは隣にいなかった。彼女が普段寝ている場所も、冷え切ったままで。
ニーナは昨日、家に帰らなかった……?
そう思い至った瞬間、血の気が引いた。だが同時に、胸の奥から激しい怒りが込み上げてくる。
なぜ戻らなかった。なぜ僕に何も言わなかった。
いや、それとも──戻れなかったのか?
彼女は自ら姿を消したのか。それとも誰かに拐かされたのか。
どちらにしろ、昨晩ニーナを庭園に残して去ってからというもの、彼女の姿を一度も見ていなかった。
リンカとのダンスを終えた後、僕は急いで彼女を探した。会場内はもちろん、庭園や廊下、休憩室に至るまで隈なく捜索させたし、自分でも探した。が、どこにもいなかった。
まるで最初から存在しなかったかのように、ニーナは跡形もなく消え失せていたのだ。
あり得ない──と思った。
大の大人が誰にも知られず姿を消すなど、常識的に考えてあるはずがない。
まして彼女は次期公爵夫人だ。もし拐かされたとするならば、とっくに犯人から要求の連絡があってもいいはずだった。
それなのに、一晩が過ぎても何の音沙汰もない。文の一通すら、届いた形跡はないと言う。
手掛かりはおろか、彼女を見たという証言すら碌に集まらなかった。
理解できない。
まるでニーナだけが、この屋敷から綺麗さっぱり消えてしまったかのようで。
「ニーナ……一体どこに……」
整った髪をグシャリと握りつぶし、頭を抱えた。
ニーナ……君がいなければ、僕は──。
「どこにいるんだ……」
必死に考える。だが、何も思い浮かばない。
ニーナが自分から屋敷を飛び出す姿など、想像もできなかった。
彼女は普段から屋敷にこもり、読書や裁縫などをして過ごしているような人間だ。
考えても、行きそうな場所など一つとして思い当たらない。
「だとしたらやはり、拐かされたのか……?」
だが、その時だった。
ふと、一人の顔が脳裏をよぎる。
ニーナ付きの侍女──リシテア。
あの女は誰よりも長くニーナの傍にいた。
もしニーナが何かを考えていたのなら。もし誰にも話していない秘密があるのなら。
あの女だけは知っているかもしれない。あの女なら、何か隠しているかもしれない。
そう思った途端、胸の奥に渦巻いていた焦燥が僅かに薄れた。
これでようやく手掛かりが掴める。




