奪われた幸せ
「ほら見て、あの方。本日も堂々と奥様以外の方をお傍に置いていらっしゃるわよ」
王家主催の夜会当日。
たくさんの貴族達が一堂に会する中で、不意にそんな言葉が私の耳に入ってきた。
嫌味ではない。紛れもなくそれは事実だ。
いや、もしかしたら多分に嫌味を含んでいるのかもしれないけれど、入場するなり夫に放置され、壁の花となるべくしてなった私に反論する術はない。ただ粛々と周囲の侮蔑と嘲笑を一身に受け止め、ノヴェント公爵夫人として恥ずかしくないよう、背筋を伸ばして立ち続けるのみだ。
本来ならば私は公爵夫人として夫とともに挨拶回りをしなければならない立場なのだが、彼は冷たく「挨拶回りに君は必要ない」と言って、まだ年若い女性──リンカ・ドラジェ男爵令嬢──をエスコートして、颯爽と歩いて行ってしまった。
私一人だけをその場に置き去りにして──。
結婚したての頃の私達は、政略結婚により結ばれる貴族達の多い中、両親達の反対を押し切ってまで結婚した二人として、少しばかり有名だった。
筆頭公爵家というだけでなく、王家からの信頼も厚いノヴェント公爵家の嫡男──セルディオ──と、取り立てて目立ったところなど一つもないココット子爵家の長女である私──ニーナ──との、絵に描いたようなシンデレラストーリー。
けれど現実は……たった一年と少ししか私に夢を見させてはくれなかった。
病気と共に私の幸せは、容赦なく奪い去られてしまったからだ。
もし私が病気になどならなかったら、セルディオは今も私を愛してくれていただろうか。最初から身体の不調を正直に彼に告げ、二人で医院を訪れていたのなら、今とは何か違う形になっていたのだろうか。
笑顔で挨拶回りをする夫とリンカ嬢を見つめながら、私は深いため息を吐く。
今更どうしようもないこの問いを、病気が発覚してからの二ヶ月間、自分の中で何度繰り返してきただろう。
考えても無駄、悩んだところでどうしようもない──そう思いつつ、諦めることはできなかった問い。
病気にさえならなければ、きっと私は……。
そっと胸に手を置き、瞳を閉じて自分の心臓の鼓動に耳を傾ける。
その規則正しい音を聞いていると、恐ろしい病がそこに窃かに隠れているだなんて、嘘のように感じられた。
けれど、時たま顔を出す病は、イタズラに私のことを苦しめ、病気が嘘ではないということを知らしめてくる。
最悪なのは、ある日突然、病気のせいで心臓が止まる可能性があるということだ。
もしも私が死んだなら、夫はドラジェ男爵令嬢を次の妻に迎えるのだろうか。爵位の差によって周囲には反対されるに違いないけれど、子爵家の私と無理やり結婚したことのある夫なら、たとえ相手が男爵家であろうとも、大した障害にはならないだろう。
「むしろあの人は……周囲に反対されればされるほど、燃えるタイプだものね……」
だからこそ、私との婚姻も実現したのだと、ぼんやり過去へと思いを馳せた──。




