リシテアの心配 2
扉を睨み続けて一晩──。
わずかな音も聞き漏らすまいと神経を尖らせていたせいか、朝方になって私はうつら、うつらと船を漕いでいた。
「ダメよ、寝ちゃダメ。奥様が……」
ぎゅう──と強い力で頬を引っ張り、何とか眠気に耐えようとするも、もはや痛みはなんの効果もなく、眠りを妨げてはくれない。むしろ心地よい眠りへと私を誘っていくかのようだ。
「ダメ、ダメよ。もう少し起きていなくちゃ……」
もうすぐ、朝食メイドが起きてくる時間だ。彼女達が起きさえすれば、扉の鍵は開け放たれる。
そうしたら、奥様がいつ戻っても大丈夫……。
そのまま眠りに落ちかけた刹那──。
コンコン──と扉を叩く音が聞こえた。
「は、はい!」
すぐさま立ち上がり、転びそうになるのも構わず扉に駆け寄る。
良かった。無事に帰ってきてくれたのね。
重い鍵を回し、重厚な扉を必死の思いで押し、扉を開けた。
「奥様──」
けれど、扉を開けた先にいたのは、見知らぬ少年だった。
「手紙だよ!」
「え……?」
落胆と驚きと眠気が混ざり合い、一瞬、頭の中が真っ白になる。
「え~と……あなたは?」
とりあえず少年の名前を聞こうとすると、彼は被せ気味にこう尋ねてきた。
「リシテアさんっている? その人に、先生から手紙を預かってきたんだ。ここってノヴェント公爵家で間違いないよね?」
寝ぼけた頭に、この少年の溌剌とした声は辛い。
「え、ええ。ここはノヴェント公爵家で間違いないし、リシテアは私だけど……」
少しの頭痛を覚えながら少年の問いに何とか答えると、彼は「じゃあ、これよろしく!」と私の手に半ば無理やり手紙を押し付け、飛ぶように去っていった。
「何なの? あの子……」
呆然と呟く。
その後、私は手の中に残された封筒に視線を落とした。
先生って誰?
けれど、そこに書かれていた差出人の名前は、少年の言った“先生”らしき人ではなく。それを見た瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
「奥様……!」
思わず封筒を握りしめる。
無事だった。無事でいてくれた。
それだけで膝から力が抜けそうになる。
しかも奥様が、私に手紙を書いてくださったなんて! そしてそれを、わざわざ届けに来させてくれた。
私が奥様のことを心配していると、分かってくださっていたのね……。
感動で、胸が熱くなる。
私はその場で踊り出しそうになる気持ちを抑えて、手紙を大事に両手で胸に抱えた。そのまま全速力で部屋へと戻り、椅子に座るのももどかしく、封を開けて読み始める。
そこには、昨晩の夜会で起こったことと、今現在、奥様がどこでどうしているか。そして私に何をして欲しいかなどが、こと細かに綴られていたのだった。




