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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
第二章 現在

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胸の痛み

 会場へ戻るきっかけが掴めず、私がベンチでぼんやりしていると、セルディオ様付きの従者がこちらへ駆け寄って来るのが見えた。


「奥様! こちらにいらっしゃったのですね。旦那様に居場所をお聞きしたのですが、イマイチ要領を得ず……。と、そんなことより旦那様が奥様を心配していらっしゃいましたよ。ですから早く会場に戻りましょう」


 要領を得ず……ね。どうせ適当に説明したんでしょう。


 私がいてもいなくてもどうでも良いんだという気持ちが、その言葉から伝わってくる。それに──。


「心配……ねぇ」


 その一言に、乾いた笑いが漏れた。


 どうせあの人は私のことなんて心配していない。今更心配するぐらいなら、さっきリンカ様だけを連れて戻ったりはしないはずだもの。


 恐らくダンスを踊り終わっても私の姿が見えないから、体裁を整えるために戻って来て欲しいだけなんでしょう。


 しかも、自ら迎えに来るわけじゃなく、従者に迎えを頼むだなんて。本当に心配しているのなら、自分で来るのが道理でしょうに。


 その程度の手間すら、私には掛けたくないということなのね……。


 その事実に少しの寂しさを覚えて、唇を噛む。


 こんな思い、もう何度も味わったはずなのに。


 どんなに冷遇されたところで、彼を嫌いになれない自分が愚かに思えて仕方がない。でも、それでも──学園の頃はそれで想いが叶ったから。今回ももしかしたら──という期待が拭えないのだ。


「……さ、奥様」


 ベンチから立ち上がるよう、従者が手を差し出してくる。


「分かったわ。では……っ」


 従者の手を掴みかけたところで、突然感じた胸の痛みに顔を歪めた。


「奥様? どうかなさいましたか?」


 不自然に言葉を途切れさせた私に従者が不審げな表情をするも、咄嗟に笑顔でやり過ごす。


「どうもしないわよ?」


 本当は笑顔が崩れそうだったし、息も乱れそうだったしで、満身創痍の状態だったけれど。ここでバレるわけにはいかない。


 今ここで倒れれば、騒ぎになる。そうなれば夜会の主催者にも迷惑をかけてしまう。


 だからせめて、一人になってからでなければ。


 私は従者を笑顔の圧で黙らせると、彼には先に会場へ戻ってもらうことにした。


 どうせこの状態じゃ……私は歩けないものね。


「それでは奥様、わたくしめは先に戻らせていただきますが、奥様も早くお戻りになってくださいね」


 何度もこちらを振り返りながら会場へと戻って行く従者に、微笑みを浮かべて手を振って見せる。


 本音では「こっちを見なくてもいいから、さっさと会場に戻りなさいよ!」──と思いつつも。


 そして──ようやく従者の姿が視界から消え失せた時。


「……っはあっ、はあっ、はあっ……」


 私はまるで糸が切れたかのように、胸を押さえてベンチに倒れ込んだのだった。














 

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