見つかりたくなかった
胸を押さえて私がベンチに座ったままでいると、不意にどこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「セルディオ見て! 薔薇がライトアップされて、とっても綺麗!」
はしゃぐ声は可愛らしくて、若さに溢れ返っている。貴族の集う夜会会場で、こんな風に無邪気にはしゃぐ事ができるのはリンカ様だけだ。男爵令嬢であり、学園にも通っていない──礼儀のなっていない──彼女ならでは。そしてその傍には──当然夫もいるらしい。
二人が一緒にいる姿を見たくなくて庭園に来たというのに、こんなところまで二人が来てしまうなんて。
「皮肉なものね……」
逃げても逃げても、どこまでも付き纏ってくる。運命は一体どれだけ私に辛い思いをさせれば気が済むのだろうか。
最初に私が奈落の底へと突き落とされたのは、心臓に病気が見つかった時だった。
それだけでも十分な悲劇だったというのに、それから暫くして──今度は夫の浮気が発覚し、更に深いところまで落とされた。
どうして……?
結婚するまでが信じられないほど幸せだったから、新婚生活が幸せすぎたから、その見返りがこれだというの?
確かに私はセルディオ様と結婚して、天にも昇るほどの幸せを得たけれど。その代わりにこんなにも辛い思いをしなければならないというの? 望外の幸せを得たものは、それ以上の苦しみを味わわなければいけないとでも?
そんなのは納得できない……。
けれど最近私が不幸続きであることは、否定しようのない事実で。
「どうして私ばっかりがこんな目に遭わないといけないの……?」
呟いて顔を覆った刹那──庭園にリンカ様の大きな声が響いた。
「あーーっ! ニーナさん、みーつけた!」
そのあまりに大きな声に、驚いて肩が跳ねる。
できれば見つかりたくなかった……。
彼女が庭園に出て来た時に、こっそり会場内に戻っておけば良かったと後悔するも、もう遅い。
ノロノロと顔を上げると、少し離れた場所からセルディオ様を引きずるようにして此方へと向かって来るリンカ様が目に入った。
「ニーナさーん! 探しましたよー!」
笑顔で手を振って近づいてくる彼女は、自分が腕を組んでいる男性が私の夫だということに気づいているのだろうか。
普通だったら、もう少しすまなさそうにするとか、腕を離すとか、そういったことをしても良さそうなものなのに。
それとも妻である私より、リンカ様の方が明らかに優遇されているから、私への配慮なんて必要ないと思われているのかもしれない。彼女に腕を取られているセルディオ様本人が何も言わない以上、そう思い込むのは当たり前なのだから。
そんな気持ちが、疲れにより表情に出てしまっていたのだろうか。リンカ様と共に近づいてきた夫は、私を見るなり硬い声でこう言った。
「そんな顔をするな。リンカは悪気があってやっているわけじゃない。リンカは学園に通えなかったから、男女の距離感があまり掴めていないんだ。男爵令嬢のすることに、次期公爵夫人が目くじらを立てるものじゃないぞ」




