セルディオの怒り 2
「僕はリンカと外へニーナを探しに行ってくる。お前は休憩室をあたれ」
「は、はい、分かりました!」
お任せくださいと腰を折る従者を冷めた目で見遣ってから、僕はリンカを連れて庭園へと続く扉へ向かい歩き出す。
その際、背後からヒソヒソと耳障りな声がいくつも聞こえたが、その全てに聞こえない振りをした。
面と向かって嫌味を言う度胸もない奴らに、何を言われたところで痛くも痒くもない。どうせ彼らは、ああしてヒソヒソと他者の嫌味を言い合うぐらいしか能がないのだ。そんな暇があるのなら、少しでも領地改革のために時間を割いた方が、よほど自分達のためになるというのに。
「まったく、どいつもこいつも……」
思わず呟き、舌打ちをする。
そんな僕に、リンカが反応して声をかけてきた。
「セルディオ、どうかしたの?」
「ああ……いや、なんでもない」
一瞬愚痴りそうになったものの、相手がリンカだったから、適当に誤魔化す。
一介の男爵令嬢でしかない彼女に愚痴ったところで意味はないし、理解だってできないだろうから。
こんな時、一緒にいるのがニーナだったらな……。
ふと妻の姿を思い浮かべ、唇を噛んだ。
このところ彼女を冷遇しているせいで、ほとんど話をしていない。
食事を一緒にしても、会話をしないどころか目が合うこともない。ベッドを共にしていても触れ合わず、ただ単に同じベッドを共有して眠っているだけという状態。
唯一会話する瞬間があるとすれば──執務内容について話す必要がある時だけだった。
そんな時の彼女は──僕に話しかける前は妙に緊張していて。でも僕が普通に答えると、明らかにホッとした顔をする。
そんな彼女の表情の変化が、面白くも愛おしいと思わないでもなかったが。以前のように僕がニーナに優しく接することはなく。
恐らく彼女は、現在進行形で苦しんでいることだろう。僕が急に冷たくなった理由が分からず。妻以外の女性──リンカ──を、傍に置きだした理由が分からず。
でもね? これは君に対する罰なんだよ?
ある日突然、体調が悪いと言って、僕を拒んだニーナ。あの時は本当に具合が悪そうだったから、僕は無条件で受け入れてあげたけれど。
その後も変わらずずっと、体調不良を貫き続け、彼女は僕との関係を拒み続けている。
僕達は夫婦なのに。大恋愛の末、ようやく結ばれた二人なのに──。
僕は何度だって待った。彼女が話してくれるのを。自分から頼ってくれるのを。
けれどニーナは何も言わなかった。侍女のリシテアは何かを知っている風だったのに、夫である僕だけが蚊帳の外に置かれ続けた。
だから僕は決めたんだ。
君が僕を拒絶するなら。君が僕を頼らないと言うなら。その選択を後悔するぐらい、嫉妬させてやろうって。
君が苦しめばいいと思った。僕が苦しんだのと同じだけ。




