救い
私を守るように立つ二人の姿に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
けれど、いつまでも守られてばかりではいけない。
私は今日、セルディオ様にきちんと別れを告げるために、ここへ来たのだから。
そう思い直し、私は二人にそっと目配せをした。
リシテアとシルは少し迷うような表情を見せたものの、やがて静かに脇へ退いてくれる。
私は車椅子を進め、セルディオ様の正面で足を止めた。
「元をたどれば、私があなたに真実を話せなかったことも、このすれ違いの原因でした」
セルディオ様は黙って私を見つめている。
「私はあなたを愛していました。信じているつもりでもいました。でも、本当に信じていたのなら、一番大切なことを隠したりはしなかったはずです」
胸が締めつけられる。
それでも私は、最後まで目を逸らさなかった。
「病気を打ち明けたら、同情されるかもしれない。公爵夫人として役に立たないと思われ、離縁されるかもしれない。そんなことばかり考えてしまって……怖くて言えませんでした」
私は小さく息を吐き、静かに頭を下げる。
「ごめんなさい、セルディオ様。私は最後まで、あなたを信じ切ることができなかった……」
私はそっと彼の手を取ると、少し冷えたその手を両手で包み込み、額へと寄せた。
「あなたからは、たくさんの愛情をいただいたのに……私は最後まで、それに応えきれませんでした。本当に、ごめんなさい」
「ニーナ……」
掠れた声が、私の名を呼ぶ。
次の瞬間、セルディオ様は私と目線を合わせるように跪き、何度も首を横へ振った。
「謝らないでくれ……。謝るべきなのは僕の方だ」
声は震え、今にも泣き出しそうだった。
「君は十分すぎるほど、僕を愛してくれていた。それなのに僕は、その愛を信じられなかった」
セルディオ様は苦しそうに目を閉じる。
「君が体調を崩したと言った時も、専属医の診断だけで安心してしまった。本当に君を大切に思うなら、他の医者にも診せるべきだったんだ。そればかりか、嫉妬させれば気持ちを確かめられるなんて、愚かなことまで考えた。本当は、そんなことをする前に君の言葉を信じて、君の隣で支えるべきだったのに……」
最後の言葉は、ほとんど嗚咽に近かった。
「僕は……夫として、一番大切なことが何一つできなかった……」
「セルディオ様……」
静まり返った部屋に、セルディオ様の嗚咽だけが静かに響く。
いつの間にかリシテアも、堪えきれないように涙を流していた。
「奥様……本当に、良かったですね……」
その言葉に、私は小さく頷く。
ようやく、セルディオ様と本当の意味で向き合うことができた。
何も告げられないまま別れるのでもなく、何も言わずに逃げるのでもない。
心の奥にしまい込んでいた想いも、伝えられなかった真実も、すべて打ち明けることができた。
だからもう、後悔はなかった。
もちろん悲しみが消えたわけではない。
それでも、最後にこうして互いの本心を知ることができたことは、何よりの救いだった。
私はようやく、自分の足で――いや、自分の意思で前へ進むことができたのだ。
その事実だけが、静かに私の胸を満たしていた。




