↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
一年後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
120/126

紛れもない事実

「そんな……嘘だ……」


 セルディオ様の唇が、かすかに震える。


「ニ、ニーナ……今の話は嘘だよな? 性質の悪い冗談なんだろう? お前が心臓病だなんて……そんなこと……」

「嘘ではありません」


 私が静かに首を横へ振ると、セルディオ様は顔を青ざめさせた。


「だ、だが……うちの専属医は、そんなこと一言も──」


 焦りを滲ませたその声を遮るように、シルが静かに口を開く。


「うちの先生は、かつて王宮で侍医を務めていたほどの名医なんだ。だから、ニーナさんの病気にも気づけた」


 その言葉に、セルディオ様は目を見開き、シルを見つめた。


「お前の先生が……元侍医、だと……?」


 信じられない──。


 そう顔に書いてあるようだった。


 それも無理はない。


 かつて王宮に仕えていたほどの名医が、今は町の小さな医院で診療を続けているなど、普通なら誰も信じないだろう。


「それで……長くないというのは……」


 震える声で問いかけながら、セルディオ様は縋るような目で私を見つめる。


 私は小さく頷き、静かに答えた。


「分からないわ。ただ……もう、あまり時間は残されていない気がするの。自分の身体だから……何となく分かるのよ」

「そ、そんな……」


 セルディオ様は力なく呟くと、その場に立ち尽くした。


 あまりにも突然の告白に、頭が追いついていないのだろう。


 青ざめた顔のまま額を押さえ、何か打開策はないのかと必死に考えているようだった。


 けれど──。


 もう、何をしても手遅れなのだ。


 その現実だけは、誰にも変えられなかった。


「だから私は、あなたとの閨を拒み、密かに治療へ通い続けていました。ほんのわずかな奇跡を信じて……」

「……っ!」


 『奇跡』という言葉に、セルディオ様がはっと息を呑んだ。


 その瞳に、一瞬だけ希望の光が宿る。


 きっと彼は、その言葉に縋ろうとしたのだろう。


 けれど私は、その希望を打ち消すように、ゆっくりと首を横へ振った。


「だけど私には、奇跡は起こりませんでした。それどころか……」


 その先を口にしようとして、躊躇う。


 病状が悪化した原因は、本当にセルディオ様のせいだけだったのだろうか。


 もしかしたら、避けられなかった結果だったのかもしれない。


 そう思うと、それを彼の責任であるかのように告げることは、どうしてもできなかった。


 すると、その沈黙を破るようにリシテアが一歩前へ出た。


「旦那様のせいです。奥様のご病気が悪化したのは」

「リシテア!」


 思わず名前を呼ぶ。


 けれど、リシテアは首を横に振った。


「先生はおっしゃっていました。強い衝撃や悲しみは、奥様のお身体に大きな負担を与えると。それなのに旦那様は、奥様を冷遇し、リンカ様を屋敷へ迎え入れ、毎日のように心を傷つけ続けたのです」


 リシテアの瞳には、今にも涙が溢れそうになっていた。


「その積み重ねが、奥様のお身体を弱らせたのです。寿命まで縮めてしまうほどに……!」

「そ、そんなことを言われても……僕は知らなかったんだ……」


 セルディオ様は苦しげに顔を歪める。


 しかし、シルがそこに容赦なく言葉を重ねた。


「知らなかったで済む話じゃない!」


 幼い声とは思えないほど鋭い怒声が部屋に響く。


「あんたがニーナさんにしてきたことは、見方によっては虐待だ! 毎日心を傷つけられて、それでも笑って耐えて……そんな生活を続けていたら、身体まで壊れるのは当たり前じゃないか!」

「うっ……」


 二人から向けられる痛烈な言葉に、セルディオ様は返す言葉を失った。


 虐待だったのかどうかは分からない。


 けれど、少なくとも周囲にはそう見えてしまうほど、私は傷つけられていた。


 セルディオ様の冷たい態度に心を抉られ、リンカ様の言葉に何度も涙を流した。


 その苦しみだけは、紛れもない事実だった。


 


 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。