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もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか?  作者: 迦陵れん
一年後

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覚悟

 シルの言葉で、私はようやく覚悟を決めた。


 今更になってセルディオ様と向き合う決意を固め、シルにリシテアを呼んできてもらうよう頼む。


「リシテアさんを呼んで、どうするの?」


 不思議そうに尋ねるシルへ、私は静かに答えた。


「どうせ遅かれ早かれ、セルディオ様はもう一度ここへ来るわ。だったら次は、私の方から公爵邸へ行こうと思うの」


 セルディオ様にここへ来られては、場合によっては先生の診療の妨げになってしまう。


 先生にも、シルにも、リシテアにも、私はもう十分すぎるほどお世話になった。


 だからこれ以上、自分のことで迷惑をかけたくないと思ったのだ。


 けれど、そんな私の思いなど知らないシルは、見る見るうちに表情を曇らせた。


「そんなの危ないよ、ニーナさん!」


 思わずというように声を荒らげる。


「相手の懐に飛び込むなんて、何をされるか分からないじゃないか!」

「何をされるか分からないって……。流石に食べられたりはしないと思うけど」


 苦笑しながらそう返す。


 既に離縁届を置いて屋敷を出た身だ。それにセルディオ様は次期公爵。


 人目のある場所で、無茶をなさるような方ではない……はず。


 けれどそう説明しても、シルは納得しなかった。


「ニーナさんは楽観的すぎる!」


 勢いよく立ち上がり、真っ直ぐ私を見つめる。


「もし屋敷に閉じ込められたら? 無理やり帰さないって言われたら? また傷つけられたらどうするんだよ!」

「シル……」

「俺も行く。絶対について行くから!」

「ええっ!? でもシルは先生のお手伝いがあるでしょう?」

「そんなの先生に頼めば何とかなる!」


 珍しく食い気味に言い返したシルは、ふいと顔を背ける。


「……ニーナさんの一大事なんだ。俺だけ安全な場所で待ってるなんて、そんなことできるわけないだろ」


 その横顔は拗ねているようにも、泣くのを堪えているようにも見えた。


 私は思わず苦笑し、小さく息をつく。


「本当に心配性ね」

「心配にもなるよ」


 シルはすぐに言い返す。


「だって俺、大切な人をもう二度と失いたくないから」


 その言葉に、胸が熱くなる。


 私は今まで、自分一人で抱え込もうとしていた。


 誰にも迷惑をかけたくない。


 誰にも悲しい思いをさせたくない。


 そう思って、一人で終わらせようとしていた。


 けれど──。


「……ありがとう、シル」


 自然と笑みが零れた。


「私……間違っていたのかもしれない」


 リシテアも、シルも、先生も。みんなが私を気遣ってくれるたびに、申し訳ない気持ちばかりが募っていた。


 でも、それはきっと違ったのだ。


 大切だからこそ心配する。それが当たり前なのだと、ようやく分かった。


「だけど、お願いがあるの」


 私はシルの瞳を見つめる。


「あなたにも一緒に来てほしい。でも、一つだけ約束して」

「約束?」

「何があっても、あなたは無茶をしないこと。もしセルディオ様と私が言い争いになっても、まずは見守っていてほしいの」

「……」


 シルは少しだけ唇を噛み、やがて小さく頷いた。


「……分かった。でも、ニーナさんが危ないと思ったら、その時は止めるからね」

「ええ。それでいいわ」


 その返事に安堵したように笑うと、シルは勢いよく立ち上がった。


「じゃあ、リシテアさんを呼んでくる!」


 そう言い残し、部屋を飛び出していく。


 勢いよく閉まった扉を見つめながら、私は静かに胸へ手を当てた。


 逃げるのは、もう終わり。


 セルディオ様。今度こそ、あなたときちんと向き合います。


 たとえ、その先に待っているのが別れだとしても──。










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