親心
もう、止まらない──。
感情が高ぶるままに声を荒げる。
すると、父の瞳がやや驚いたかのように見開かれた。
「ニーナ、落ち着きなさい。私はお前のことを考えてだな──」
「どこがですか? 想い人がいるというのに他の人と結婚しろと言われて、それのどこが私の事を考えていると仰いますの?」
ツカツカと歩み寄り、父の執務机の上に、ダン!──と手を置いて父に詰め寄る。
私の気持ちを考えるなら、本当に私の事を思ってくれているのなら、他の結婚相手など見繕わず、素直にセルディオ様と結婚させてくれれば、それで良かった。
なのに、見ず知らずの男性を“最有力候補”として薦めておいて、『お前のことを考えている』? 一体誰がそんな言葉を信じるというのか。
「私とセルディオ様との結婚が難しいであろうことは十分に承知しております。ですが私達は、それでも将来を共にしようと二人で誓い合ったのです。ですからお父様がなんと仰ろうとも、私達は結婚いたします」
父の顔を睨みつけるようにして宣言し、それから勢いよく背中を向ける。
そのまま早足で執務室を出て行こうとしたところで──背後から声をかけられた。
「できる事なら私だって、お前をノヴェント公爵家に嫁がせてやりたいと思っている……」
弱々しい声だった。
つい先程まで、別の人との結婚を薦めていた人と同一人物とは思えないほどに。けれどそれは、間違いなく父の声であり。
「どういうことですの?」
振り向いて聞き返せば、父は力なく椅子に座り込み、両手で頭を抱えるようにして机に肘をついていた。
「お前とノヴェント公爵令息がいくら想い合っていたところで、爵位の差はどうにもならん。お前も分かっていると思うが、あちらは筆頭公爵家であり、我が家は特に自慢するものもない、ただの子爵家だ。家格や家柄はもちろんのこと、幼い頃より受ける教育についても、高位貴族と下位貴族では内容が全く違う。そんな家に嫁いだところで、お前が幸せになれると思うか? 苦労する事など目に見えている。それが分かっていながら可愛い娘を嫁に行かせるなど、親としてできんのだ。どうか分かってくれ……」
最後の一言は、懇願しているようだった。
けれどそれが何だというのだろう。
実際に結婚して苦労するのは私であって、父ではない。
だから私は、ピン──と背筋を伸ばして声を張った。
「そういった心配は無用です。その辺りのことは既にセルディオ様と話し合っていますから」
実際問題、まだそこまで詳しく話しているわけじゃない。
ただ、本当に私とセルディオ様が結婚するのだとしたら、様々な問題があることを漠然と話したことがあるだけだ。




