意に沿わぬ縁談
「私が男爵家の方と結婚!? それは一体どういうことなのですか、お父様?」
学園生活も三年目となったある日──父から呼び出された私は、男爵家の子息との縁組みを打診され、つい大声をあげてしまった。
「相手が男爵家では、何か不満か?」
冷静に尋ねてくる父に、私は「そうじゃない」とばかりに大きく頭を横に振る。
家柄なんてどうでも良い。ただ私には、セルディオ様という大切な人がいるから、他の人との縁組みなんて考えた事がなかった。その事は、父だって知っているはず。
「男爵家がどうとか、そういう問題ではありません。私は今、ノヴェント公爵家のセルディオ様と──」
お付き合いをしているのだと、伝えようとした途端──。
「恋愛と結婚は別だ」
と冷ややかな声で遮られた。
「そんな……!」
どうして?
セルディオ様への叶わぬ想いに苦しんでいた時は、家族総出で私を慰めてくれたのに。いざ彼と結婚できる状況になったら突然反対するなんて、どういう事なの?
訳が分からず、何を考えているのかと、父の顔をじっと見つめる。
私が涙に暮れていた時、家族のみんなは代わる代わる私を元気づけてくれた。それは父だって例外じゃない。
だからこそ、セルディオ様との結婚を諸手を挙げて喜んでくれると思っていたのに──まさか、他の人との結婚を薦めてくるなんて。
「……納得できません」
ここに来て、いきなり手のひらを返すように縁談を薦められたことが。
私には恋人がいると知っていながら、学園生活最後の一年を、別の人の婚約者として過ごせと言われたことが、どうしても。
けれど──父は私の言葉を聞き入れてはくれなかった。
「お前の気持ちは聞いていない。私はただ、今お前に話した男爵家の人間が、今のところお前の結婚相手として最有力候補であると伝えたかっただけだ」
取り付く島もない、とはまさにこの事。
私だって、貴族の結婚が恋愛感情だけで成り立つものだとは思っていないし、むしろ貴族である以上、結婚するのに恋愛感情は邪魔になる場合が多いことぐらい理解している。
貴族なら自分の感情より家同士の繋がりを重んじるべきだし、高位貴族と下位貴族の間にある壁だって、簡単に乗り越えられるほど低いものじゃない。だから少しでも家と領地の利益になるよう、高位貴族は高位貴族の、下位貴族は下位貴族の候補者の中から最も条件の良い相手を選んで結婚するのが当たり前であり、そこに疑問や反論など挟むべくもないことは分かっていた。
だけど、それでも。
「こちらの話を全く聞いてくれないなんて、あまりにも酷いではありませんか!」




