望まぬ再会
その日の私は久しぶりに体調が良く、医院に併設されている庭園で、日向ぼっこを楽しんでいた。
と言っても、既に自力で歩く体力を失っていた私は、シルに車椅子を押してもらっての移動だったのだけれど。
医院に移り住んでからというもの、シルには本当によくしてもらった。
誰よりも優しく、誰よりも一生懸命。
そのひたむきさは、とりわけ私の病を治すことへ向けられていて、時には過保護すぎるほど世話を焼かれ、思わず苦笑してしまうこともあった。
けれど、そのお節介ささえ、今の私には心地よかった。
セルディオ様と暮らしていた頃には、いつしか感じられなくなっていた温もり。
誰かに気遣われ、誰かに大切にされているのだと実感できる、穏やかな毎日。
──学園に通っていた頃は、セルディオ様との間にも、確かにそんな時間があったはずなのに。
笑い合って、未来を語り合って。
あの頃は、ずっとこの幸せが続くのだと信じていた。
だけど今では、その記憶さえ遠く霞み、夢だったのではないかと思ってしまうほど朧げになっている。
今の私の記憶の中のセルディオ様は、いつも冷たく、無表情で私を見下ろしている。
そして私に背を向け、「さよなら」とだけ言い残して去っていく。
あんな別れ方を望んでいたわけじゃなかった。
できることなら、もう一度やり直したい――そう願った日もあった。
けれど今は、もうそんな気持ちもない。
ただ、セルディオ様には幸せになってほしい。
それだけを願っている。
公爵邸を出てから一年半。
リシテアがいて、先生がいて、そして誰よりもシルが、ずっと私を支え続けてくれた。
セルディオ様との苦しかった日々を、少しずつ思い出へと変えてくれた。
過去は消えない。
それでも過去として受け止め、前を向いて歩けるように、何度も手を差し伸べてくれた。
だからもう、大丈夫。
私は心から、セルディオ様の幸せを願える。
「セルディオ様、どうか……」
幸せになってください。
胸の中でそっと祈りを捧げた、その時だった。
「……ニーナさん」
車椅子を押していたシルが、不意に歩みを止めた。
「旦那さんに……会いたい?」
「え……?」
思わず振り返る。
そんなことを聞かれたのは初めてだった。
「どうして、急に……?」
戸惑う私を見つめ、シルは何かを言おうとして口を開く。
──その瞬間。
「ニーナ!?」
聞き慣れた声が、庭園に響き渡った。




