セルディオの恐怖
ニーナ……どこにいるんだ?
ニーナ……君に会いたい。
ニーナが姿を消してから、すでに一年半以上の歳月が流れた。それでも僕は、いまだに彼女を探し続けている。
領地にいる両親からは、何度も言われた。
──もうニーナのことは諦めろ。
──後継のためにも、リンカを正式な妻に迎えろ、と。
だが、そんなことができるはずもない。
僕が愛しているのはニーナだけだ。
リンカと身体を重ねたのは、薬を盛られたあの一度きり。それ以降は、近づくことさえ嫌悪していた。
そんな女と結婚して、一体何になるというんだ。
そもそも僕は、ニーナと離縁した覚えなどない。
彼女が置いていった離縁届は、見つけた瞬間に破り捨てた。
ニーナと離縁するなど、あり得ない。
僕は、彼女がいなければ生きていけないのだから。
それでも公爵家の執務を投げ出さずにいられるのは、いつかニーナが帰ってくると信じているからだ。
彼女が戻った時、公爵家が荒れ果てていたら、自分を責めてしまうかもしれない。
だから僕は、死に物狂いで政務をこなした。
帰ってきたニーナを、何一つ不自由のない屋敷で迎えられるように。それだけを支えに、生きてきた。
だけど──。
一年半が過ぎた今も、彼女は戻ってこない。
……こんなことになるくらいなら、最初からリンカを屋敷へ入れるべきではなかった。
たとえ責任を取る必要があったとしても、別邸に住まわせ、本邸への出入りを禁じていればよかった。
そうしていれば、ニーナはきっと出て行かなかっただろう。
後悔しても、後悔しても、もう遅い。時間は決して巻き戻らない。
僕はただ──ほんの少しだけ、君に嫉妬してほしかったんだ。
僕だけを見て、僕だけを求めてほしかった。
ただ、それだけだったのに。
「……それが、どうしてこんなことになったんだ」
掠れた声が、静かな執務室に溶けていく。
僕は執務机へ力なく突っ伏し、震える両手で頭を抱えた。
「ニーナ……ごめん。僕が悪かった……」
彼女のことを思い浮かべるたび、脳裏に浮かぶのは、苦しげに俯くニーナの姿だった。
勝手な思い込みと勘違いで彼女を責め立てても、ニーナは何一つ言い返さなかった。
……いや、違う。
僕が、言い返せないように追い詰めてしまっていたのかもしれない。
彼女はただ悲しげに俯き、すべてを飲み込んでいた。
そして最後に残された言葉は──。
『さよなら』
まさか、あれがニーナと交わす最後の言葉になるなんて、夢にも思わなかった。
一時の感情に任せて吐き捨てた言葉が、これほどまでに重い意味を持つことになるなんて。
「知っていたら……絶対に口になんてしなかったのに……」
もう取り消すことはできない。
一度放った言葉は、決してなかったことにはならない。
その当たり前のことを、僕は彼女を失ってからようやく思い知った。
「ニーナ……帰ってきてくれ……。そうしたら、何度だって謝る。土下座だってする。君が許してくれるなら、僕は何だって言うことを聞くよ。だからお願いだ……帰ってきてくれ、ニーナ……」
幾筋もの涙が頬を伝い、執務机へと落ちていく。
もしこのまま、ニーナが見つからなかったら──。
そう考えただけで、底の見えない闇へと引きずり込まれていくような恐怖が、僕の胸を締めつけた。




