71話 ジャックの居場所な件
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☆
「うっ。臭いなぁ」
戦闘が終わり、鼻に入ってくる屍臭が目立つようになってきた。
屍臭。
つまり、この地下室にはジョージ以外の屍が存在する。
俺は地下室の奥に進んだ。
理由は特にない。
屍を見たくなったわけではない。
金目のものを盗ろうというのでもない。
本当に、ただ、なんとなく。
コツ、コツ、コツ
地下はとても静かで、俺の足音を認識できるほどだった。
いくらか歩くと、床にメモ帳が落ちていた。
間には、ペンが挟まっている。
それを拾って読む。
それには、あまり重要なことは書いてない。
誰を捕まえようとして、誤って殺してしまったか。
どこで捕まえた誰をどのようにして死ぬ直前の状態にしたか。
そして、どのような表情だったか。
そんなことがまとめてあるだけだ。
俺は最後の欄の次に書き加える。
ジョージほど詳しくは書かない。
“ 場所 メーア町の酒場の地下室
人物 ジョージ
方法 ナイフで刺す
最後の表情 満足”
『「満足」、ですか。随分と都合のいい考え方ですね』
「そうだな」
満足であってほしい。
ただの俺の願い。
俺はメモ帳をポケットに押し込み、先に進む。
コツ、コツ、コツ
ギュァァァン
地下室の奥の扉を開けると、周りの雰囲気が一気に変わった。
先程までとは比べ物にならない屍臭。
両側には、刑務所のような鉄格子付きの畳二畳ほどの部屋が幾つもある。
そして、ほとんどの部屋には、かつて人であったものが入っている。
地下は湿気が多いため、屍には苔だのカビだのが生えまくっている。
なぜ、死体の処理をしなかったのだろう。
死体を処理した方が、沢山の人間を押し込むことができる。
しかし、彼はしなかった。
面倒だったのか。
死体の表情も好きだったのか。
それとも、死んだ人を忘れないという、彼なりの供養か。
俺ができるのは推測のみだった。
☆
俺は階段を上がった。
それでも、鼻についた屍臭はすぐにはとれない。
酒場の外に出ようとすると、外には大量の人間がいた。
当たり前か。
俺は地下室に行く時、隠し扉を閉めていなかった。
また、扉は壊したまま。
中から漏れ出る屍臭。
そして、何者かに壊された扉。
明らかに、事件現場である。
「中から男が出てくるぞ!捕えろ!」
衛兵のような男が命令し、それに合わせて抜刀した何人かが俺に向かってくる。
俺は彼らを地面に倒れた扉をぶん回して撃退。
体調も精神も良くはない今の俺には、ロングソードを使って殺さない自信がなかったからだ。
別の衛兵が俺を取り囲む。
しかし、俺はアカリのいる方向に直進する。
先程の扉による攻撃に恐れを抱いたらしく、俺が目の前に来ても、衛兵たちは攻撃してこなかった。
☆
「エルン。おかえり」
夕方、俺は野宿地に帰ってきた。
ソフィアが出迎えたのは意外だった。
「アカリはどこ行きました?」
「多分、狩りにいった」
「そうか………」
「で、『切り裂きジョージ』は殺した?」
「ああ。これはそいつの持ち物です」
ポケットの中からメモ帳を取り出す。
「………エルン。お手柄」
「そうか?」
「うん」
別に、手柄が欲しかったわけじゃないのにな。
「エルン。臭いよ」
俺の体には、屍臭が染み付いているのだ。
臭くないわけがない。
「……後で水浴びにでも行きますよ」
「私が洗おうか?私、何もしてないから」
違う。
俺が何もさせなかったんだよ。
自分のためにな。
「遠慮しておきます」
「そう……」
「’あ!お兄さん!おかえりなさい!’」
アカリが帰ってきた。
うさぎを5匹持って帰っている。
「’ただいま’」
「’どうしたの?元気ないよ?’」
俺は地下室で屍を見た時、何も思わないようにしていた。
感情に飲み込まれそうだったから。
今はその状態を解いており、遅れて感情が迫ってきている。
元気なわけがない。
「’いろいろ……あったんだよ’」
「’そう……。お疲れ様’」
それだけ言って、アカリはウサギを火魔法で焼いた。
そして、1匹俺に差し出す。
俺は、何も言わずにそれを食べる。
………そこまで臭くはなかった。
いや、臭く感じなかった。
ウサギ肉の臭さが屍臭にかき消されたのだろう。
「’いけるな’」
「’本当?よかった!’」




