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72話 弱り目に祟り目な件

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 俺らはメーア町から王都に向かった。


 正直、今すぐ寮に帰って寝たい気分なのだが、国王が面会を求めているらしい。


 弱り目に祟り目ってやつだな。


 「ソフィア。『切り裂きジョージ』の件、いかがでした?」


 「いかがも何も。私がしたことは、酒場で酔い潰れただけ」


 ソフィアには酒場のマスターがジョージであったことは伝えていない。


 顔を知らない人間が殺されるのと、顔を知っている人間が殺されるのでは、受ける衝撃が違うからな。


 「後は、エルンが全部やった。私は、何もできなかった役立たず」


 ………ん?


 なんか、自虐的になってるな。


 「メモメモ」にはない特性だ。


 もしかしたら、ソフィアが冷酷だったのは、自分が何もできないことを知りたくなかったからなのかもしれない。


 どのような手段を使ってでも、自分の存在価値を確かめたかったからなのかもしれない。


 「今回は偶然俺がやった方が効率がいいことが大半だっただけです。『役立たず』だったのではありません。『役に立つべき場面がなかった』だけです」


 「でも、エルンは私がメーア町に行かなかった方が楽だったんじゃないの?」


 「俺はソフィアの補助兼護衛です。あなたがメーア町に行かないなら、私は行かなかったでしょうね」

 

 これは一見、「お前のせいで巻き込まれた」という風に捉えられる。


 だが、ソフィアは失敗したから落ち込んでいるのではない。


 存在価値が探せなかったから落ち込んでいるのである。


 それなら、変に慰めの言葉を連ねるよりも、「お前が行ったおかげで俺はメーア町に行き、事件は解決した」と仄めかした方が慰めになるのである。


 「そう………」


 ソフィアは表情を変えない。


 ………あれ?


 まさか、前者で捉えた?


 なら、俺がソフィアに嫌味を言ってるだけになるじゃん。


 空気が重い。


 「楽しかったですか?」


 俺らは殺人鬼の処理でメーア町に行ったのだ。


 空気を変えるためとはいえ、この質問はおかしいか?


 「野宿は楽しかった」


 この後、王都に着くまでソフィアは一言も発しなかった。


 「ソフィア、男爵。良くやってくれたな」


 「ああ……どうも」


 ソフィアは黙ったままだ。


 「どうした?『切り裂きジョージ』を殺して、しかも、奴のメモを持ち帰ったのだろう?奴を処理してきたんだから、依頼は達成じゃないか」 


 魔導船内の空気を引きずっている。


 ソフィアな目の前では、そう簡単に元に戻ることはできない。


 「お父さん。私、疲れた。部屋に帰って寝る」


 ガチャン


 ソフィアは出ていってしまった。


 「男爵。娘は王家の人間としてどう思うか?」


 唐突だな。


 一応、率直に言わせてもらうぞ?


 「そうですねぇ。少なくとも、貴族にすら向いていないでしょう。ソフィアは、自分の手で何かを成さないと恐怖を感じる可能性があります。アイツに権力を持たせてはいけません。ラザフォードが不安定になってしまいます」 


 自分の存在意義を探そうと、次々に体制を変える可能性があるからな。

 

 「直球だな。流石男爵だ」


 なんで直球なことが俺の取り柄みたいになってるのかな?

 

 「それ、褒めてるんですか?」


 「ああ。王族にここまで遠慮のない評価を下せるのは、男爵くらいだろう」


 生意気ってこと?


 まあ、俺は元々王家に忠誠なんてないしな。


 遠慮は最低限でいいだろう。


 公的な場所では目立たない程度にはするつもりだが。

 

 「これで、『切り裂きジョージ』の件は終わりだ」


 これだけ?


 もっと、詳細を詳しく教えさせられると思ってたんだけどな。


 「寮に帰ってもいいですか?」


 「まあ、待て。むしろ、今から伝えることが、私が男爵をここに呼んだ理由だ」


 え?


 今からが本番なのか?


 「何すか」


 「男爵。君は、そろそろ社交パーティーに参加してほしい」


 「社交パーティー、ですか?」


 なにその面倒くさそうなもの。


 貴族が集まってパーティーするんだろ?


 絶対に、権力だの家同士の繋がりだので、楽しめないじゃん。


 「なんでですか?」


 「普通は、貴族は社交パーティーに参加するのだ。参加した方が有力な貴族に近づけるからな」


 楽しむことが目的じゃないことがハッキリと言われてしまった。


 俺としては、パーティーは楽しむために参加したいんだけどな。


 「俺は学生ですからね」


 「ああ。私ものらりくらりで躱していたのだが、『あの戦い』で平民の学生が活躍したことを信じている貴族は少なくてな。平民を貴族にすることで、他の貴族の権力を落とそうという、王家の画策のように捉えられてしまったのだ」


 言いたいことはわかる。


 わかるんだけどさ。

 

 「つまり、王家の求心力を落とさないために、俺に力を示せと?」


 「そういうことだ」


 はあ。


 これを断ったら断ったで、貴族の子供だらけの学園での俺への当たりが強くなる可能性があるな。


 平穏に生きるために、力を示すか。


 「わかりました。で、いつ、どこであるんです?」


 「2週間後にガーランド伯爵邸で行われる」


 ………間に合うか。


 「了解しました」

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