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69話 野宿になるなんて思ってもいなかった件

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 この日、俺らはメーアから離れて場所で野宿をすることにした。


 ソフィアは野宿初体験らしく、少し落ち着きがないように思える。


 ただ、その落ち着きのなさは野宿を忌避しているからではない。


 明らかに、高揚している人間のそれだ。


 「エルン。小枝を集めてきた。使うでしょ?」 


 「使いますね。そこに置いておいて下さい」


 王族なら、周りに色々するように命令して、本人は何もしなさそうなのに。


 しかし、ソフィアは自分から行動している。


 おそらく、レオンならそうするだろう。


 同じ王族でもレオンよりは好印象だな。


 「’お兄さん!猪狩ってきたよ!あと、平たい石も!’」


 振り向くと、血塗れの白狼が猪を持ってきていた。


 咥えて持ってくるのには大きすぎたのだろう、地面を氷魔法で凍らせてその上を滑らせてきた。


 よく見ると、処理がされてある。


 首を落として川で血抜きをし、腑も出されている。


 皮と肉を分けていないのは流石だ。


 一応、アルプトラウムの主要なメンバー以外のほとんどの人には、アカリは「優秀な狼」ということで話をつけている。


 狼が人間が食べやすいように肉と皮を綺麗に分けていたら、明らかに狼ではないだろう?


 「エルン。肉をどうするの?」


 「焼きます」


 野生の肉を生では食わんよ。


 「鍋もないのに?」


 「石で焼きます」


 野宿することになるとは思ってもいなかったので、当然、鍋なんて持ってきていない。


 そこで、アカリが持ってきた石を鉄板代わりにするのだ。


 ジュウゥゥ


 十分に高温になった石の上に、薄くスライスした肉を置く。


 音はいいんだよな。


 音は。


 俺は良さそうな枝を4本見つけ、樹皮を剣で削る。


 「エルン。それ、なに?」


 「箸ですけど?」


 「ハシ?何それ」


 あ。


 確かにな。


 この世界で一般的に使われているのはナイフとフォークとスプーン。


 箸なんて、俺が知る限りでは、ヤワチ人くらいしか使っていない。


 「こうやって使うんですよ」


 俺は、箸の使い方を見せた。


 「こう?」


 「うそん」


 コイツ、一瞬で箸の使い方をマスターしやがった。


 見て真似ることに対して、天才的な才能を持っているのかもな。


 「この肉、そろそろ食べていい?」


 「あ、いいですよ」


 ソフィアは、覚えたての箸を使って、肉を器用に口に運んだ。


 「…………」


 無言である。


 まあ、そうだろうね。


 ごめんね。 


 塩も、酒も、油もないのだ。


 その肉は、臭いし、硬い。


 いいものばかり食べている王族にとっては、食べられるものではないだろう。


 ゴクン


 ソフィアは肉を飲み込んだ。


 「おいしくない」


 「まだ食べますか?それとも、もう食べませんか?」


 「食べる」


 意外だな。


 食べないって言うと思ってたんだが。


 「’ねえ、お兄さん。ボクも食べていい?’」


 「’ああ、いいぞ’」


 アカリはまだ調理されていない肉の塊を火魔法で調理し、かぶりついた。


 ………最初からアカリに調理してもらえばよかったのでは?


 「’………不味くはないね’」


 俺はその言葉を信じ、焼けた肉を口に運んだ。


 「………まずっ」


 今度からは、どこにでも塩を持っていこう。


 食後。


 「エルン。お風呂は?」


 「ないですよ?」


 そんなもん、あるわけないだろ?


 俺に浴槽を運べと?


 「入りたい。体が気持ち悪い」


 そう言われてもねぇ。


 ないもんはない。


 ………。


 風呂じゃなくてもいいなら、どうにかなるが。


 「’アカリ、火魔法で水魔法からできた水を蒸気にして、風魔法で蒸気を一定の空間に集めることはできる?’」


 「’…………ああ、そういうことね。出来るよ!’」


 理解してくれたか。


 「’やってくれ’」


 アカリの魔法によって、蒸気を閉じ込めた部屋のようなものができた。


 そう、俺が再現したかったのはサウナである。


 魔法で再現しようとすると、魔法使いが3人必要である。


 複数の詠唱を同時にできないからね。


 流石アカリだな。


 「ソフィア」


 「なに?」


 「脱いでください」


 あ、いかん。


 これじゃ、ただの変態じゃないか。


 「わかった」


 少しは躊躇えよ。


 一応、手で目を隠す。


 肌を見たのを国王に知られて、首が飛ぶのは嫌だからね。


 まあ、脱ぐことを要求した時点でアウトな気がするが。


 「そこに、曇っている空間がありますね」


 「うん」


 「5分ごとに出たり入ったりを繰り返してください」


 本当は、15分くらいがいいんだけどね。


 サウナ初心者に15分はきついだろうよ。


 「じゃあ、行ってくる」


 「はあ」


 『お疲れですね、マスター』


 「そりゃあ、ねぇ」


 俺は、アカリに抱きついて熟睡しているソフィアを横目に、ヴァントと話していた。


 ソフィアはあの後、サウナに7回ほど出たり入ったりを繰り返した。


 そりゃ、体力持っていかれて、熟睡するわな。


 『「切り裂きジョージ」に、キレイにハメられましたね』


 「ヴァントもそう思うか」


 明らかに、朝の件は不自然なのだ。


 『はい。明日の朝イチに、「切り裂きジョージ」を捕まえに行きましょうか』


 「………は?『切り裂きジョージ』の正体を知ってるのか?」


 『あくまで推測ですが。こちらをご覧ください』


 ホログラムウィンドウに映された人物の服の下には大量のナイフ。


 いつぞやのルリアと同じだな。


 「でも、この人が『切り裂きジョージ』って決まったわけじゃないよね?」


 ナイフ愛好家かもしれないしね。


 『確かに、まだこれだけでは証拠としては弱いですね。では、これをご覧ください』


 「………。まだわかんないし……」


 『これは?』


 ………。


 決まりだな。

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