68話 悲鳴で目覚めるメーアの朝な件
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☆
「キャァァァァァァァ!」
早朝。
俺は悲鳴で目を覚ました。
多分、その悲鳴の主は女。
声が高い。
悲鳴が発せられた場所は大体推測できる。
「’お兄さん!聞こえた?’」
俺の部屋の外から声がする。
「’ああ。行くぞ!ソフィアは無理にでも連れてこい!’」
「’うん!’」
俺はベッド下に置いておいた剣を手に取り、外を目指す。
なんだかんだ言って、メーア町は人口密集地。
建物同士の間隔があまりない。
つまり、隠れられやすい。
早く向かわないと、手がかりすら隠されてしまう。
「’お兄さん!二手に別れよう!ボクは右からいくね!’」
強力な敵に対して戦力を分けるのは、普通なら非常に悪手。
ただ、アカリなら大丈夫だろう。
「’了解!’」
俺は左回りでその場所に向かう。
町人は誰も建物から出ていない。
当たり前か。
悲鳴が聞こえたのに、誰が建物から出ようか。
俺にとっては、もし戦闘になっても見られることがないのは好都合だな。
☆
俺は悲鳴が発せられたと思われる場所に到着した。
しかし、そこには人はいなかった。
逃げたのだろう。
地面には、吹き出したように見える少量の血痕。
刺されたのか?
ただ、俺にはよく分からない点がある。
刺されたのにしては、血の量が少なすぎる。
そして、被害者がいない。
つまり、なんらかの怪我をさせて連れ去ったと見るのが妥当だろう。
ん?
おかしくないか?
もしも俺が同じように人を連れ去るのだとしたら、相手にバレないように近づき、布を口に噛ませる。
何で被害者は悲鳴をあげたんだ?
いや、なんで被害者は悲鳴をあげれたんだ?
「切り裂きジョージ」は殺しのプロ。
一般人ごときが接近に気づくわけがない。
もし被害者に武芸の試みがあったとしても、悲鳴をあげずに冷静に対処しようとするはずだ。
「’お兄さん!怪しい人はいた?’」
アカリも到着した。
ソフィアの背中にくくりつけられているソフィアは熟睡している。
呑気なもんだな。
「’いや、全然。人っこ1人見なかったぞ?’」
陽の光はあるのだ。
外に出ているなら、目視できるはず。
…………。
なぜ、「切り裂きジョージ」は早朝に犯行に及んだんだ?
真夜中の方が気づかれないじゃないか。
奴の考えが読めない。
「お前ら!何をしている!」
衛兵が大量に向かってきた。
流石衛兵だな。
悲鳴が聞こえた中でも、外に出て、原因を突き止めようとするのだ。
「悲鳴が聞こえたもんで。様子をみにきたんですよ」
「しらばっくれるな!アイツらを捕まえろ!」
衛兵は槍を構え、俺らに近づいてきている。
俺らがやったと思われてる?
「俺たちは何もしてません!」
「うるさい!そこの少女を開放しろ!」
ん?
少女?
……………。
あ。
わかった。
「’逃げるぞ!アカリ!’」
「’え?う、うん!’」
確かに、誘拐しているように見えるか。
アカリの背中にソフィアをくくりつけたのは失敗だったな。
何で逃げたかって?
側から見たら、俺らは明らかに誘拐犯と被害者。
逮捕されるのは確定だからな。
☆
俺らは急いで町から出た。
流石に、衛兵は追ってきていない。
「ん?エルン、ここどこ?」
やっとソフィアは目を覚ましたようだ。
もしもソフィアが悲鳴と共に目を覚まし、アカリに跨っていたなら、状況はだいぶ変わっただろう。
………いや、それは違うな。
ソフィアを無理矢理連れ出した俺のせいでもある。
このことを全て熟睡していたソフィアのせいにするのは、間違っている。
「メーアの外です」
「なんで?『切り裂きジョージ』は?もう殺したの?」
捕まえるっていう選択肢はないんだな。
「まだです。私たちは、今、衛兵に追われています」
「なんで追われているの?エルン、あなたなら衛兵は全て倒せたはず」
「倒したら倒したで厄介なんですよ」
衛兵に対して実力を見せつけることになるからな。
俺らへの疑いは、より一層強くなっていただろう。
「私は王族。そのことを明かせばよかったでしょ?」
「私たちが王族誘拐していることになるので、ダメです」
そもそも、こんな辺境に王女がいるということ自体、信じられるのか分からない。
「どうするの?帰るの?」
「帰るわけにはいかんでしょう」
もし、このまま何の手柄もなしに帰ったら、あの国王になんて言われるだろうか。
想像しただけで悍ましい。
…………。
火をつけたくなってきたな。
おっと。
我慢、我慢。
しかも、そもそも俺は関係のない人間を殺せないだろう。
あの戦いの時は、相手は軍人。
死ぬ覚悟はあったはずの人間たちだからな。
「エルン。火をつけるのはダメ。兄様に恨まれる」
どうしたもんか。




