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7話 夫婦喧嘩を見るのはキツい件

 高速魔道路内で、俺は音ゲーの極みみたいなことをしている。


 接近してくるデブリを死ぬ気で避ける。


 行きの時と比べてバルの速度が10倍近いので、難易度は圧倒的に上がっている。


 『マスター、ヒットです。ノーベース1塁』


 今、野球の審判みたいな事をしているのは、俺のAIであるヴァント。


 バルにデブリが当たったら、当たった事を教えて欲しいと頼んである。


 『マスター。バルの装甲を考えると、デブリごとき避ける必要はないと思うのですが』


 「いやー、ね。流石に暇なんだよね。」


 快適なのはいい事だ。


 安全なのはいい事だ。


 だが、暇なのは勘弁して。


 バルの速度が10倍近くになったから、7時間ほどでイタに帰れるとはいえ、暇なのに違いはない。


 『マスター、高速魔道路を抜けます。5…4…3…2…1、逆噴射開始』


 「ぐおっ」


 慣性力で心臓持ってかれそうだ。

 

 『バランサー起動。対地速度を3.0m/sに固定』


 着地に心配する必要なかったな。


 ヴァントが全部やってくれた。


 『着地まで、5…4…3…2…1』


 ゴン


 こんな感じで着陸。


 超簡単だね!


 『シートの下に通信用リングがあります。装着してください』


 「りょーかい」



 数分後、バルの元にお袋が涙目で走って来ているのが、モニター越しに確認できた。


 『愛されていますね』


 「俺もそう思う」


 俺がハッチを開くと、お袋は俺に飛びついてくる。


 「グヘッ」


 「ああ、エルンスト、おかえりなさい。無事でよがった……」


 「お母さん、だだいま……って、いつまでギュッとしてるの?」


 お袋は、無言で俺を抱擁し続ける。


 「だっで、あの人があ、エルンストはもう帰っでこないなんて言うからぁ」


 ああ。


 そう言うことか。

 

 まあ、元のバルの装甲はペラいからね。


 事情を知ってる人間からすると、自殺行為みたいなもんだからね。


 今はとんでもない分厚さだけど。


 見た目は5cm、実は20m。


 名探偵コ○ンも驚きである。


 その5分後くらいだろう、親父が変な顔をして来た。


 いつも変だったが、今回は特に変である。


 「よ、よう。エンルスト。生きてたか」


 「うん!」


 きっと、「側室の子が死んで嬉しー」って思ってたんだろうけどね。


 俺は生きてるよ。


 「あなた、どういうことですか?私の子を殺したいんですか?」


 「そ、そんなわけないだろう?」


 「だったら何なんですか!あ、エルンスト。バルの中に入っててくれる?」


 「はーい」


 いやー。


 夫婦喧嘩って、見るの辛いよね。


 バルの中に避難することを勧めてくれたお袋に感謝。


 まあ、バルのマイクが音を拾い、ノイズを消してくれるから、バルの外にいる時よりも鮮明に夫婦喧嘩が聞けるんだけどね!


 『マスター。マイクをオフにしてよろしいですか?』


 できたのかよ!


 「頼むわ」


 『了解』


 外の音が聞こえなくなる。


 ただ、モニターは動いているため、お袋が手を広げたり、親父が頭をすごい速さで掻いたり、非常に滑稽である。


 『マスターが猫を被る様子が傑作でした。「いつまでギュッとしてるの?」でしたっけ?中身はいい大人なんでしょう?恥ずかしくないんですか?』

 

 「見た目が見た目だからね」


 中身は24歳だとしても、外見は5歳なのだ。


 そんな人間が「何だぁお袋。いつまでハグしてくれとんじゃ、ワレェ」なんて言う方が恥ずかしいよ。


 『そうですか…。ん?マスター。マスターのお父様が抜剣してますけど、大丈夫そうですか?』


 そんなわけ……。


 「はあ?ってマジじゃん!いかん!間に合えッ!」


 親父が振り翳した剣を、バルのアームでガッチリホールド。


 親父が肩を痛がっている。


 多分、脱臼したかな?


 『マスター。マスターのお母様をヴァント内で保護する事をおすすめします』

 

 「できるならそうしてやりたい。ヴァント、マイクオン」


 俺とヴァントの声しか聞こえなかったバル内に、外の音がとりこまれる。


 「もういいです!あなたとは離婚します!」


 「どこにもお前の居場所なんかないだろ?エルンストのマート星にでも行けば?」


 「わかりました!どうぞお元気で」


 保護できそうだね。


 よかったよかった。

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