7話 夫婦喧嘩を見るのはキツい件
☆
高速魔道路内で、俺は音ゲーの極みみたいなことをしている。
接近してくるデブリを死ぬ気で避ける。
行きの時と比べてバルの速度が10倍近いので、難易度は圧倒的に上がっている。
『マスター、ヒットです。ノーベース1塁』
今、野球の審判みたいな事をしているのは、俺のAIであるヴァント。
バルにデブリが当たったら、当たった事を教えて欲しいと頼んである。
『マスター。バルの装甲を考えると、デブリごとき避ける必要はないと思うのですが』
「いやー、ね。流石に暇なんだよね。」
快適なのはいい事だ。
安全なのはいい事だ。
だが、暇なのは勘弁して。
バルの速度が10倍近くになったから、7時間ほどでイタに帰れるとはいえ、暇なのに違いはない。
『マスター、高速魔道路を抜けます。5…4…3…2…1、逆噴射開始』
「ぐおっ」
慣性力で心臓持ってかれそうだ。
『バランサー起動。対地速度を3.0m/sに固定』
着地に心配する必要なかったな。
ヴァントが全部やってくれた。
『着地まで、5…4…3…2…1』
ゴン
こんな感じで着陸。
超簡単だね!
『シートの下に通信用リングがあります。装着してください』
「りょーかい」
☆
数分後、バルの元にお袋が涙目で走って来ているのが、モニター越しに確認できた。
『愛されていますね』
「俺もそう思う」
俺がハッチを開くと、お袋は俺に飛びついてくる。
「グヘッ」
「ああ、エルンスト、おかえりなさい。無事でよがった……」
「お母さん、だだいま……って、いつまでギュッとしてるの?」
お袋は、無言で俺を抱擁し続ける。
「だっで、あの人があ、エルンストはもう帰っでこないなんて言うからぁ」
ああ。
そう言うことか。
まあ、元のバルの装甲はペラいからね。
事情を知ってる人間からすると、自殺行為みたいなもんだからね。
今はとんでもない分厚さだけど。
見た目は5cm、実は20m。
名探偵コ○ンも驚きである。
その5分後くらいだろう、親父が変な顔をして来た。
いつも変だったが、今回は特に変である。
「よ、よう。エンルスト。生きてたか」
「うん!」
きっと、「側室の子が死んで嬉しー」って思ってたんだろうけどね。
俺は生きてるよ。
「あなた、どういうことですか?私の子を殺したいんですか?」
「そ、そんなわけないだろう?」
「だったら何なんですか!あ、エルンスト。バルの中に入っててくれる?」
「はーい」
いやー。
夫婦喧嘩って、見るの辛いよね。
バルの中に避難することを勧めてくれたお袋に感謝。
まあ、バルのマイクが音を拾い、ノイズを消してくれるから、バルの外にいる時よりも鮮明に夫婦喧嘩が聞けるんだけどね!
『マスター。マイクをオフにしてよろしいですか?』
できたのかよ!
「頼むわ」
『了解』
外の音が聞こえなくなる。
ただ、モニターは動いているため、お袋が手を広げたり、親父が頭をすごい速さで掻いたり、非常に滑稽である。
『マスターが猫を被る様子が傑作でした。「いつまでギュッとしてるの?」でしたっけ?中身はいい大人なんでしょう?恥ずかしくないんですか?』
「見た目が見た目だからね」
中身は24歳だとしても、外見は5歳なのだ。
そんな人間が「何だぁお袋。いつまでハグしてくれとんじゃ、ワレェ」なんて言う方が恥ずかしいよ。
『そうですか…。ん?マスター。マスターのお父様が抜剣してますけど、大丈夫そうですか?』
そんなわけ……。
「はあ?ってマジじゃん!いかん!間に合えッ!」
親父が振り翳した剣を、バルのアームでガッチリホールド。
親父が肩を痛がっている。
多分、脱臼したかな?
『マスター。マスターのお母様をヴァント内で保護する事をおすすめします』
「できるならそうしてやりたい。ヴァント、マイクオン」
俺とヴァントの声しか聞こえなかったバル内に、外の音がとりこまれる。
「もういいです!あなたとは離婚します!」
「どこにもお前の居場所なんかないだろ?エルンストのマート星にでも行けば?」
「わかりました!どうぞお元気で」
保護できそうだね。
よかったよかった。
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