58話 違和感の件
☆
グロックがアルプトラウムに来た次の日。
「同志エルン男爵!」
アイオワと、もう1人が走ってきた。
ん?
何だって?
「同志」なのに「男爵」?
俺が前世の感覚を持ってるからだろうが、どうも違和感があるな。
社会主義者と貴族という、相反する物が融合しちゃってる感じがするんだよな。
ピンとこない。
「どうした?」
「この星の住民に、同志の下につくように説得いたしました」
怒りの対処をさせる予定だったんだけどな。
下につくように説得って、いきなりすぎだよ。
物事には、順番ってものがあるんだぞ?
「で、結果は?」
「概ね成功でしょう」
「…は?」
おかしいだろ!
ラザフォードに蹂躙されたんだろ?
「そんな簡単に、一応ラザフォード王国貴族の俺の下についてくれるはずが………」
「その子細、それがしが申し述べ候はん」
アイオワが連れてきた、袴に髷の男がそう言った。
小さい時に、ヴァントに共通語の補強として古語を教えてもらっていたのだが、なぜか役に立ったな。
世の中、何が役に立つかわからないものだ。
「いにしえ、この星はひとつの国として、自らを治め侍りき。されど、二十五年ばかりの昔、レンツの国に攻め落とされ、その手に落ちにけり。もとよりこの地にある人々は、一所に集められ、強ひて使われ、苦しみをなめ侍りし。かかる折に、レンツの支配より解き放ち給いしは、ほかでもなき、汝ら、ラザフォードの国の人々なれば。我らにも少なからぬ傷は負わされつれど、いかでか汝らを恨み奉ることができん」
なるほどなるほど?
アルプトラウムの人間からすれば、俺らは解放者なのか。
レンツ出身のアイオワが説得に行って、よく刺されずに済んだな。
ん?
「レンツに占領されて25年経つのに、古風な言葉使いの矯正はさせられなかったのか?」
「ああ、させられましたよ」
「普通に喋れるんかい」
「当たり前です。ただ、この星の文化は我らの誇りなのです。どうか、多めに見ていただけますよう、お願い申し上げます」
「いいよ」
だって、この世界に日本的な文化が出てくるんだろ?
そんなの、前世が日本人の俺が拒否できるはずがないじゃん。
「ありがとうございます!」
そこは、「かたじけなし」がよかったな。
「御身の名は、何と申し候ふや」
「それがし、九条院左衛門佐景虎と申し候ふ」
長っ。
☆
……。
…………。
俺は今、元現地民の元収容所、いや、大きさ的には収容大陸の視察に来ているのだが、何か違和感を感じる。
家屋が和風だから?
いや、俺は元日本人だぞ?
袴を着て、帯刀しているから?
それくらい、京都で何人もコスプレしている人がいたぞ?
何が違う?
出されたお茶が、日本茶だったから?
いや、めちゃくちゃ美味しかったぞ?
久しぶりすぎて、一瞬で飲みごしてしまった。
お茶を出したお姉さんは、不満そうだったな。
すまん。
茶碗の評価をするの、忘れてた。
うーん。
何か、違和感。
何だろう。
牛肉を食べている人がいるから?
明治初期なら、よくあった事だろう?
何だ?
何なんだ!
「’アカリ。なんか、違和感ないか?’」
後ろについてきているアカリに聞いてみる。
「’ないよ?’」
そうか。
ないか。
じゃあ、気のせいか?
そんなわけは………。
…………。
あ、わかった。
歩き方か。
ここの人間はナンバ歩きだったか。
あー、スッキリした。
☆
「景虎だっけ?」
「はっ」
「レンツに攻め滅ぼされる前の国の名前を教えて欲しいんだけど」
「ヤワチの国にございます」
ヤワチ?
大和と河内が混ざったみたいな名前だな。
山城と河内の可能性もあるか。
「ヤワチ人の伝統工芸品って、あるかな?」
以前、グロックが言っていたが、両替のためにも金が必要。
他の星系と交易できる物が欲しいのだ。
「そうですなぁ。漆器と蝋燭、それと刀くらいでしょうか」
漆器は売れるな。
今までにラザフォード王国内でみたことがある食器って、陶器か木器だったからな。
希少性を考えると、貴族向けに高値で売ることになりそうだ。
Japanese風の人間が作るjapan。
なんちゃって。
刀も売れる。
飾り多めのやつを観賞用に、飾り少なめのを武器として売ろう。
蝋燭は、多分、売れないだろう。
光る魔石でこと足りるからな。
逆に、何で蝋燭の文化があるのかが謎だな。
………。
わかった。
さっきの違和感の真の正体。
ここの人間で、魔法を使っている人間がいない。
まさか………。
「まさか、ここの人間って、魔法を使えないのか?」
「はい………。エルン男爵も魔法が使えないとお聞きしましたが……」
「ああ、使えない」
すごいな。
オリジナルが、それだけ残ってるって事だろう?
魔法を使えない…………。
「ヘイ、ヴァント。お袋に連絡をいれておいてくれる?『ヤワチ』っていう国に心当たりはないか、って」
『了解しました』




