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58話 違和感の件

 グロックがアルプトラウムに来た次の日。


 「同志エルン男爵!」


 アイオワと、もう1人が走ってきた。

 

 ん?


 何だって?


 「同志」なのに「男爵」?


 俺が前世の感覚を持ってるからだろうが、どうも違和感があるな。


 社会主義者と貴族という、相反する物が融合しちゃってる感じがするんだよな。


 ピンとこない。


 「どうした?」


 「この星の住民に、同志の下につくように説得いたしました」


 怒りの対処をさせる予定だったんだけどな。


 下につくように説得って、いきなりすぎだよ。


 物事には、順番ってものがあるんだぞ?


 「で、結果は?」


 「概ね成功でしょう」


 「…は?」


 おかしいだろ!


 ラザフォードに蹂躙されたんだろ?


 「そんな簡単に、一応ラザフォード王国貴族の俺の下についてくれるはずが………」

 

 「その子細、それがしが申し述べ候はん」


 アイオワが連れてきた、袴に髷の男がそう言った。


 小さい時に、ヴァントに共通語の補強として古語を教えてもらっていたのだが、なぜか役に立ったな。


 世の中、何が役に立つかわからないものだ。


 「いにしえ、この星はひとつの国として、自らを治め侍りき。されど、二十五年ばかりの昔、レンツの国に攻め落とされ、その手に落ちにけり。もとよりこの地にある人々は、一所に集められ、強ひて使われ、苦しみをなめ侍りし。かかる折に、レンツの支配より解き放ち給いしは、ほかでもなき、汝ら、ラザフォードの国の人々なれば。我らにも少なからぬ傷は負わされつれど、いかでか汝らを恨み奉ることができん」

 

 なるほどなるほど?

 

 アルプトラウムの人間からすれば、俺らは解放者なのか。


 レンツ出身のアイオワが説得に行って、よく刺されずに済んだな。


 ん?


 「レンツに占領されて25年経つのに、古風な言葉使いの矯正はさせられなかったのか?」


 「ああ、させられましたよ」


 「普通に喋れるんかい」


 「当たり前です。ただ、この星の文化は我らの誇りなのです。どうか、多めに見ていただけますよう、お願い申し上げます」


 「いいよ」


 だって、この世界に日本的な文化が出てくるんだろ?


 そんなの、前世が日本人の俺が拒否できるはずがないじゃん。


 「ありがとうございます!」


 そこは、「かたじけなし」がよかったな。


 「御身の名は、何と申し候ふや」


 「それがし、九条院左衛門佐景虎と申し候ふ」


 長っ。



 ……。


 …………。


 俺は今、元現地民の元収容所、いや、大きさ的には収容大陸の視察に来ているのだが、何か違和感を感じる。


 家屋が和風だから?


 いや、俺は元日本人だぞ?


 袴を着て、帯刀しているから?


 それくらい、京都で何人もコスプレしている人がいたぞ?


 何が違う?


 出されたお茶が、日本茶だったから?


 いや、めちゃくちゃ美味しかったぞ?


 久しぶりすぎて、一瞬で飲みごしてしまった。


 お茶を出したお姉さんは、不満そうだったな。


 すまん。


 茶碗の評価をするの、忘れてた。


 うーん。


 何か、違和感。


 何だろう。


 牛肉を食べている人がいるから?


 明治初期なら、よくあった事だろう?


 何だ?


 何なんだ!


 「’アカリ。なんか、違和感ないか?’」


 後ろについてきているアカリに聞いてみる。


 「’ないよ?’」


 そうか。


 ないか。


 じゃあ、気のせいか?


 そんなわけは………。


 …………。


 あ、わかった。


 歩き方か。


 ここの人間はナンバ歩きだったか。


 あー、スッキリした。


 「景虎だっけ?」


 「はっ」


 「レンツに攻め滅ぼされる前の国の名前を教えて欲しいんだけど」


 「ヤワチの国にございます」


 ヤワチ?


 大和と河内が混ざったみたいな名前だな。


 山城と河内の可能性もあるか。


 「ヤワチ人の伝統工芸品って、あるかな?」


 以前、グロックが言っていたが、両替のためにも金が必要。


 他の星系と交易できる物が欲しいのだ。


 「そうですなぁ。漆器と蝋燭、それと刀くらいでしょうか」


 漆器は売れるな。


 今までにラザフォード王国内でみたことがある食器って、陶器か木器だったからな。


 希少性を考えると、貴族向けに高値で売ることになりそうだ。


 Japanese風の人間が作るjapan。


 なんちゃって。


 刀も売れる。


 飾り多めのやつを観賞用に、飾り少なめのを武器として売ろう。


 蝋燭は、多分、売れないだろう。


 光る魔石でこと足りるからな。


 逆に、何で蝋燭の文化があるのかが謎だな。


 ………。


 わかった。


 さっきの違和感の真の正体。


 ここの人間で、魔法を使っている人間がいない。


 まさか………。


 「まさか、ここの人間って、魔法を使えないのか?」


 「はい………。エルン男爵も魔法が使えないとお聞きしましたが……」


 「ああ、使えない」


 すごいな。


 オリジナルが、それだけ残ってるって事だろう?


 魔法を使えない…………。


 「ヘイ、ヴァント。お袋に連絡をいれておいてくれる?『ヤワチ』っていう国に心当たりはないか、って」


 『了解しました』


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