48話 一之瀬朱里の件
☆
「’私は一之瀬朱里。お兄さん!これからよろしくね!’」
一之瀬朱里、か。
そういえば、俺の前世の名前はなんなのだろう。
どうしても、思い出せない。
「’お兄さんはエルンスト=フォン=ヴィッテルスバッハだよね?ゲーム内でケーキ屋で話しかけてきた’」
「’よく覚えてるね’」
『’ご歓談中失礼します。マスター、この犬っころに時間を使いすぎです’』
「’犬っころ?ボクには一之瀬朱里っていう名前があるの!しかも、犬じゃなくて狼!’」
アカリの一人称は「ボク」である。
前世でもボクっ娘は短髪なイメージがあったのだが…………固定観念ってやつだな。
『’同じようなものでしょう?’』
「’全然違うもん!’」
『’具体的にどこがですか?’』
「’………っ。違うったら違うの!’」
『’説明できないのですか?’』
「’ヴァント、その辺にしておけ’」
ちなみに俺は犬と狼の違いを知っている。
人間に家畜化されているか否か、である。
一説によると、狼が滅多に尻尾を振らないのに対して犬がしょっちゅう尻尾を振るのは、尻尾を振った方が人間が喜ぶかららしい。
あくまで一説だが。
「’ヴァントって、マート星の?お兄さんすごいね!あの長い呪文覚えれたんだね!ボク、前ヴァントに手を出そうとして、諦めたんだ’」
「’俺は覚えるのはまあまあ得意だからな’」
グゥゥゥゥゥゥゥ
アカリの腹がなる。
「’………飯食べるか?’」
「’う、うん!ここ3日、ろくに獲物がとれなくてさ’」
………。
コイツに何をあげればいいんだ?
消化器官は人間と同じなのか?
肉の方がいいのか?
「’アカリは、何を食べるんだ?’」
「’お肉か野菜か魔石って感じかな’」
魔石も食べるのか。
………。
人型でも魔物なんだな。
魔物は魔石を食べると魔力が上がる。
自身の魔石が成長するからだ。
草食動物は草から魔力を得て自身の魔石を成長させ、その魔石を肉食動物を喰らい、その肉食動物よりも上位な肉食動物が………。
害が無い生物濃縮って感じだ。
とりあえず、リアカーに積んである魔石と、干し肉を食べさせてみるか。
「’ほれ’」
「’ありがとう!’」
バリバリッ
ゴリゴリッ
…………。
人間の姿をした生物が石を食べるってシュールだな。
「’美味しいよ!お兄さん!この魔石は鹿のかな?’」
魔石に味があるのか?
判別ができるってことは、あるんだろうな。
「’テキトーに狩った奴だからわからん’」
「’そっか。この干し肉も最高!塩味がある!’」
この雪山は海から遠いから、塩味に飢えていたのだろう。
味覚は人間に似ているのか………。
「’アカリは野生の時、生肉を食べてた訳じゃん?よく食べれたよね’」
「’いいや、ボクは生肉は食べてないよ?お肉を魔法で焼いてから食べてた!’」
………。
周りの狼は不思議に思っただろうな。
☆
「’出発するぞ!’」
『了解』
「’わかった!’」
「’え?アカリはついてくるのか?’」
「’さっき、『これからよろしくね』って言ったでしょ?’」
確かに言ってたな。
あれはそういうことだったのか。
『’マスター。この犬っころは置いて行っても良いと考えられます。リアカーの容量を圧迫するだけです’』
「’ボクは自分で歩くから大丈夫だよ?プレデテーラ・ウォーエルの所に行くんでしょ?’」
アカリが狼の形態になった。
………。
やっぱり、喋ることとサイズ以外はうちの芝犬に似てるな。
「’このバイクは速いぞ?’」
「’大丈夫!ボク、前にドラゴンと競走して、勝ったことがあるんだ!’」
雪エリアにはドラゴンはいないはずだが……。
いるのかもな。
この世界は、続編の要素も入ってるっぽいし。
本当にアカリがドラゴンより速いなら、俺のバイクより速い事になる。
それと、雪山にいる狼の魔物は氷魔法が大得意だ。
戦力にもなる。
「’じゃあ、ついてきていいよ’」
「’やったぁ!’」
喜んでいるが、尻尾は全く動いていない。
狼だからかな。
☆
………。
雪原でアカリが、俺のバイクの全速力にも余裕でついてきている。
つまり、前世の隼の水平速度よりも圧倒的に速い。
………。
風の抵抗凄そうだな。
俺はヘルメットつけてるから大丈夫だが、目に虫とか入ったら痛そうだな。
「Gyaoooooooooooo!」
ドラゴンの声?
『’マスター、正面にドラゴンを確認。数は1です’』
本当に雪エリアにドラゴンがいる。
2作目の要素ってことか。
パーリェン星内のアップデートがされてるってことは、2作目でもパーリェン星は登場するんだな。
「’正面か、応戦するぞ!’」
「’お兄さん!あれ、ボクが倒していい?’」
「‘いいぞ?’」
狼は陸を走る生き物である。
空のドラゴンへの対抗手段は魔法しかないはず。
どう戦うか、見ものだな。
「’いっくよー!’」
ヒュン
「’な!飛んで……!’」
ザンッ
ドドドドン
一瞬だった。
一瞬のうちにアカリはドラゴンのところまで跳び、前足で首に一撃。
あっという間にドラゴンの頭と胴が離れてしまった。
「’どう?お兄さん!’」
「’す、すごいな’」
本当に、あの時気絶してくれていてよかった。
もし戦闘になってたら、確実に負けてた。
俺についてきてくれる事に感謝だな。




