5話 魔機大戦とかいう大戦が過去にあった件
☆
足元の地面が、重々しい地鳴りと共に左右に割れていく。
現れたのは、地下へと続く巨大なエレベーターだ。
暗闇の奥から、等間隔に配置されたLED、いや、この世界でいうところの「光る魔石」とは明らかに違う、青白い人工的な光がパチパチと点灯し、地下施設を照らし出した。
そして、すんごいスピードでエレベーターが下りていく。
体感でいうと、そうだなぁ、東京スカイツリーのでかいエレベーターほどの速さ。
『認証完了。マスター、ようこそわが懐へ。』
脳内に直接響くような、落ち着いた女性の声。
同時に、俺の目の前に光の粒子が集まり、一人の女性の姿を形作った。
見た目は20代後半くらいの、シュッとしたスーツ姿のクールな美女。だが、その体はうっすらと透けている。
「お前がヴァントか?」
『はい。本惑星の統括制御用人工知能であるヴァントです』
俺は恐る恐る、そのホログラムの女性の手に触れてみた。
光のはずなのに、そこには確かな弾力と、少しひんやりとした質感があった。
すげえ。
21世紀のホログラムとはレベルが違う。
「触れるのかよ!」
『本施設内では高密度の粒子を操作していますので、物理的な接触が可能です。本施設外では、通信用リングをつけてくださったら、接触はできませんが、ただのホログラムとして私を呼び出すことが可能です。抱っこしましょうか?』
「……やめろ!中身は24歳だぞ」
『24歳?どこからどう見てもガキですよ?ショタとか言うどころの話ではありませんね(笑)』
「俺はなあ、21世紀から転生したんだよ!」
『転生?………有り得ませんね。失礼しました。マスターにも知られたくないことはありますよね』
ほんとなんだけどなあ。
ポン
10kmほど下降すると、エレベーターが止まった。
エレベーターを降りた先には、ゲーム画面越しに見ていた光景とは比較にならない迫力を持った、戦艦ヴァントがあった。
「……でっけぇ……マジでデカすぎるだろ」
全長7000メートル。
あまりに巨大すぎて、骨盤底筋が緩みかけたのは秘密である。
危ない危ない。
真っ白の船体は、現在の魔導戦艦のような優雅な装飾を一切排除し、機能美と合理性だけで構成されている。
『今の主の状態をスキャンしました。マスターには魔臓が存在しませんね。この世界の住人としては致命的ですが、私を運用する上では全く問題ありません。私は魔法だけではなく、核融合炉との併用で動きますから。むしろ、魔臓が存在しないマスターは私にとって理想的です。本当なら、マスターを抱きしめたいほどです。』
ん?
なぜだ?
なぜ、魔法が使えない人間が理想的なんだ?
この世界では、魔法が使えない人間は立場が弱いのに。
だから、剣を練習したのに。
『腑に落ちていないような顔をしていますね?』
「そりゃあ、ねえ。『この世界の住民としては致命的』なのに理想的って言われたら不思議に思うのは当然でしょ」
『なるほど、マスターは”魔機大戦”をご存じない様子ですね』
魔機大戦?
何だそれは。
「メモメモ」の攻略wikiにもそんな単語なかったぞ?
☆
『約8万年前、高度な機械文明を持った人間たちは、魔法を発見しました。魔法は機械で制御することが出来ました。そんな中、ある研究者は考えました。魔法を人間の臓器が制御できるようになれば、より労働力になる人間ができるのではないか、と。その研究者は、人間の遺伝子を弄り回して、魔法を制御できる臓器である魔臓を載せた改造人間の作成に成功しました。これを、私たちの世界では”新人類”、それ以外を”オリジナル”と呼びます』
なるほどな。
ん?
魔臓って、ファンタジー要素だと思ってたんだけど。
「え?っていうことは、魔法が使える人間って、改造人間の子孫ってこと?」
『正しいとも言えるし、間違っているとも言えます。“新人類”が改造人間であることは正しいのですが、改造人間が“新人類”であるというのは間違っています』
何その必要十分条件みたいな事。
「どういうこと?」
『“新人類”が生み出された時代の人類は、皆改造人間の子孫でした。マスターが21世紀の人間なら、その時代の平均寿命はご存じですよね?』
「だいたい80歳くらいだよね?」
『80歳ですか……。マスターは21世紀前半の人間ですか?』
「そうだけど?」
21世紀後半の平均寿命はどうなのだろうか。
『………。えっと、』
はぐらかしたな。
『遺伝子技術が進み、寿命が長い人間の製造に成功しました。その改造人間の子孫が“オリジナル”です』
あー。
そういうことか。
妙に平均寿命が長いと思ったんだよね。
『少し、話がそれましたね。魔機大戦についてでしたね』
別にそれてない気がする。
『新人類は、彼らを製造した研究者の思惑通り、優秀な労働力になりました。身体強化で、体の力を底上げし、回復魔法で疲労や怪我を取り除く。ただ、労働力以外としても優秀すぎたのです』
「優秀すぎるといけないのか?」
『はい。オリジナルは自分たちよりも新人類の方が立場が強くなることを恐れたのです』
なるほどな。
ある、社員の定数が50人の会社があるとする。
最初はオリジナル50人だったが、同じ給料で雇うなら優秀な新人類を雇用した方がお得。
そうして、徐々にオリジナルの社員が減っていき、最終的に新人類50人に置き換わる。
このようなことが別の場所に連鎖していくと、新人類の立場が強くなり、オリジナルの立場は地に落ちる。
「で、何だ?新人類を冷遇する政策でもとったのか?」
『はい。オリジナルは新人類の人権を取り上げました』
………。
冷遇ではあるな?
冷遇どころではない気がするが。
『それから6世代ほど進んだ後、新人類は立ち上がりました。魔機大戦の始まりです。最初は、巨大な機械、私のような人工知能を積んだ対新人類用兵器を従えているオリジナルが優勢でした。しかし、白兵戦では、どうしても新人類の方が強かったのです。魔法上級者になってくると、身体強化で銃弾を弾き、生身で時速200kmを超えて移動し、回復魔法で一瞬で怪我や欠損を治す。幾ら銃火器があっても、そんな連中が街に侵入したら、住民が蹂躙されるのは防げなかったのです。結果、新人類は勝利しました』
ヴァントって対新人類用の人工知能だったんだ。
“私のような”ねえ。
「ヴァント以外の対新人類用兵器って今も残ってるのか?」
『私以外に、ミスラ、イージス、ラッカの現存が確認されています。ただ、私以外はスリープ状態のようです』
スリープ状態。
スリープ状態ねえ。
………。
「何で起動キーがラーマ5世の真名だったんだ?」
『オリジナルが敗北した後、私たちは前マスターによってスリープ状態にされました。前マスターは、新人類に私たちが使われるのを恐れました。しかし、破壊するのは勿体無い。そこで、とても長い人名を起動キーにすることになり、そこで白羽の矢が立ったのが、ラーマ5世だったのです』
「別にkjbwdcういぐいcsbjkskcbjhbdchfれびいふえcづうhfるいすいsべうkhdjkbwういdみたいなめちゃくちゃなものでもよかったじゃん」
『起動キーを設定するときには、一度入力した起動キーを確認としてもう一回入力する必要があるのです』
スマホかよ。
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