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38話 包囲された件

 大会閉会後の夜。


 『えー。被指名手配者エルン、この宿は包囲されている。大人しく出てきてもらおうか』


 外から、魔導マイクの音がする。


 なんで宿がバレた?


 「エルン」がこの宿にいることは知られていないはずだ。


 この宿に泊まっているのは「バロイ」で……。


 ………。


 公爵の仕業か。


 あいつ、「エルン=バロイ」ってことを国王に言いやがったな。


 余計なことを。


 どうやって逃げる?


 窓から外を見るが、本当に宿は包囲されていた。


 隙間なく五重に。


 地面から逃げるのは無理か。


 屋根は?


 無理だな。


 手が届かない。


 他人のふりをするのは?


 ……賭けだな。


 外の連中が、「バロイと名前を偽っている蛮族の格好をしたエルンを捕まえろ」という命令で動いているなら、蛮族の格好をしていなければ捕まらないはずだ。


 いくら指名手配書の面相書きが俺に似ていても、「蛮族の格好」という思い込みからは逃れられない。


 外の連中の中に俺の知人がいたら終わるが、これしかない。


 服装は………メジェドでいこう。


 顔が隠れるからな。


 何かあった時には、別の人に布を被せれば身代わりになるし。


 服装が目立つからこそ良いってもんだ。


 『えー。早く出てきなさい!犯罪者!あと10秒以内に出てこないと、突入する!10、9、8……』

 

 突入され始めたら、窓から外に出よう。


 包囲が薄くなるはずだ。


 『4、3、2……』


 『バカもん!何をしておる!』


 『こ、国王陛下!』


 国王が来たか。


 知人には、メジェドもあまり効果がないな。


 これこそ万事窮すってことだ。


 『私は……あなた様が命令したので、犯罪者を捕まえようと………』


 『だーれがエルンを犯罪者だと言った!』


 え?


 『しかし、指名手配されるのは犯罪者くらいしか……』


 『お主は、エルンに土下座してこい!エルンがいなかったら、この国は滅びてたかもしれなかったんだぞ?』


 …………。


 俺を裁くために指名手配したんじゃなかったのか?


 今までの苦労はなんだったんだ………。


 いや、待て。


 これは、演技の可能性がある。


 魔導マイクで呼びかけてきた騎士が俺のところに土下座するという名目で、俺の部屋に入るつもりだ。


 トントントントン


 廊下から足音が聞こえて来る。


 剣を構えるか。


 さあ、いつでも来い。


 コンコン


 「どうぞ」


 ガチャリ


 「ま、誠に申し訳ありませんでした!」


 ………。


 え?


 土下座だけ?


 じゃあ、本当に俺は犯罪者として指名手配されたんじゃなかったのか………。



 国王に連れられて、俺は民家に入った。


 国王曰く、その民家は王家が所有している民家だとか。


 もちろん、警戒はしている。


 いつ捕まえられるかわからないからね。


 「紅茶でいいか?」


 センブリ茶だよな?


 「あれ、苦くないですか?」


 「だから、蜂蜜を入れるのだ」


 テーブルの俺の目の前に、蜂蜜入りのセンブリ茶が出された。


 一口飲む。


 「ふふふっ」


 「どうだ?意外といけるだろう?」


 ああ。


 意外とな。


 飲めないことはない。


 「8ヶ月も何をしていたんだ?」


 「ひたすら遠いところを目指して、歩いていました。あ、海峡を泳いで越えたりもしましたね」

 

 「なに?歩いてこの辺まで来たのか?」


 「歩いてファーメル村ってところに行きましたね。魔導船を使う手もあったんですけど、身バレはなるべくしたくなかったんですよ」


 「なぜだ。お前はラザフォード王国を救った英雄だというのに……」


 「バレてましたか。戦闘中とはいえ、人を殺したのが初めてだったんですよ。それで……簡単に言うと、闇堕ちみたいなもんです。復活しましたが」


 「なるほどな………。復活できたならよかった。………お前は今からどうしたい?学園に戻りたいなら手配するが………」


 「俺は…………」


 俺はどうしたいんだろう。


 罪悪感を糧に生きると決めた。


 だがそれは、「死なない」ということを決めたに過ぎない。


 以前のように生きるとは決めていない。


 学園に戻ればあいつらがいる。


 …………そういえば、エリカとシャルロッテは見たのに、ルリアは見かけてないな。


 学園に戻ったら、どうなるだろう。


 正直、俺は貴族間の外交の場みたいな学園を楽しいと感じていたのだろうか。


 退屈ではなかったが。


 マート製の紅茶が飲みたい、っていう願望はある。


 お袋と話したい、っていう願望もある。


 ただ、どちらも学園は関係ない。


 「…ちょ、止まって下さい!」


 なんか民家の外が騒がしいな。


 バキバキッ


 「ぐあっ!」

 

 ドアを突き破って、先程俺に土下座をした騎士が飛んできた。


 え?


 なに?


 「何事だ!」


 「女が1人………」


 ………。


 女?


 暗殺者か何かか?


 「え、エルンストさん!大丈夫………って、え?紅茶飲んでるだけ?」


 血塗れでやって来たのは、サーシャ。


 血の匂いがすごい。


 「陛下!どういうことですか!私が学園生にインタビューされている時にエルンストさんを攫って!」


 攫われてはないぞ?


 「外の兵は殺したのか?」


 「いえ、全員致命傷にならない程度にお腹を斬っただけです!」


 流石だな。


 サーシャについてる血は返り血か。


 「そうか………。君はサーシャといったな。君は、この男の正体を知っているのかね?」


 「知りませんが、エルンストさんはエルンストさんです!私の故郷の呪いを取り去った、優しい方です!」


 「この男の正体はエルン。ラザフォード王国を救った英雄だ」


 違いますよ?


 どちらかというと、エルンストの方が正しいですよ?


 「英雄、ですか?そうなんですか、エルンストさん?」


 「人によってはそう思うかもね」


 だってそうだろう?


 ラザフォード側からすると俺は英雄なのかもしれないが、レンツ側からすると、悪魔でしかない。


 「ああ、陛下。俺があの戦いに首を突っ込んだことを知っているのって、何人ほどいますか?」


 「学園の上層部、エルンと交友があったと学園の上層部が判断した人間、そして、王国の上層部だけだ」


 知ってる人はかなり少ないな。


 そこはありがたい。


 「少し話がズレてしまったようだが、エルン、君はどうするつもりなのかね?」


 ………。


 俺はサーシャの方を見る。


 今まで介護したり、剣の相手になったりしてくれていたのに、「じゃあサイナラ」とはいかないだろう?


 「エルンストさん……。私のことはお気になさらず……」


 そういうわけにもいかないんだよな。


 「サーシャ。俺が『ついて来い』って言ったら、ついて来てくれるか?」


 「両親と相談する必要はありますが、エルンストさんについていきたいです!」


 よし。


 決めた。


 「陛下、俺は学園に戻ろうと思います」


 「そうか、それはよかっ」


 「ただし、サーシャを学園関係者にして下さい」


 「………剣術の教師でもさせるのか?確かに、剣術大会優勝者が剣を教えるのには賛成だが………。よし!手配しておこう!」

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