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36話 vs知人な件

 『本大会も後半に差し掛かろうとしています!第19試合目です!北門から出てきたのは、圧倒的バランス感覚で対戦した全ての試合を泥試合に持ち込んだ、脱力マスターアルブレヒト=フォン=ヴィッテルスバッハァァァァァァ!』

 

 脱力マスターってなんだよ。


 明らかに剣士の二つ名ではない。


 バランス感覚で泥試合に持ち込む?


 兄はどういう戦闘スタイルなんだ?


 『南門から出てきたのは、対戦者の心をへし折る、剣士の天敵、蛮族王バロイィィィィィィ!』


 …………。


 もう慣れてしまったな。


 街でも、


 「蛮族王ォォォォ!」


 って呼ばれて、


 「何ですか?」


 って自然と答えるくらいには慣れてしまった。


 『両者、構えてください!』


 俺は、中段。


 兄も、中段。


 『オッズは、アルブレヒト=フォン=ヴィッテルスバッハ選手が2.00倍、バロイ選手は2.00倍です!』


 おお。


 珍しいな。


 俺と兄に賭けた人の人数が同じだったのか。


 それにしても、兄を毎回フルネームで呼ばないといけない司会者、大変だねえ。


 『では、コングがなったらスタートです。…………』


 カーン


 「…………」


 「…………」

 

 動かないな。


 「…………」


 「…………」


 『あのー両者、試合は始まっていますが?』


 『多分だが、両方ともカウンター狙いであるため、動けないんだだろう』


 俺はカウンター狙いじゃないんだけどな。


 まあ俺が先制攻撃をすることはなかったから、そう思われてるのかもしれない。


 …………。


 動くか。


 「フンッ」


 中距離の横薙ぎ。


 剣で受ける時は当然のこと、剣で流すだけでもそこそこふっ飛ばされるほどのエネルギーを込めている。


 これを、兄がどうやって対処するか見てみようか。


 「よっと」


 ……なに?


 ○ョ○ョ立ちで回避だと?


 ○ョ○ョ立ちされたせいで、剣が届かなかっただと?


 尋常じゃないバランス感覚だな。


 でも、そんな体勢じゃもう一発は避けれんだろう。


 ………振り下ろし。


 ギャギャギャギャギャ


 剣で受けた?


 いや、剣で流したな。


 しかも、流す時に途中で力を抜いて、衝撃を肩までで抑えている。


 なるほど、だから「脱力マスター」なのか。


 相手が体勢を崩す時を待って、崩れたら仕掛ける作戦か。


 ストックが言ってた「カウンター狙い」って、そういうことか。


 「私は、死んだ弟のために、負ける訳にはいかないのだよ」


 兄は、中段に戻しながらそう言った。


 ………。


 死んでもないし、なんなら負けさせたいけどな。


 兄は俺が剣を振らなければ何もできない。


 ………。


 ちょっと変な手を使うか。

 

 ………横薙ぎ。


 バキッ


 「ギャァ!」


 すまんな、兄。


 『アルブレヒト=フォン=ヴィッテルスバッハの顎に剣が直撃し、倒れてしまったぁぁぁぁぁぁ!勝者、バロイィィィィィィ!』


 顎を狙ってすまんな。


 もう少し上を狙ったら、目を斬るか鼻を折るかしそうだったからな。


 『ほう、なかなか面白い手を使ってくるな。メルド、アルブレヒトの避け方の致命的欠陥はわかるか?』


 ストックは兄をファーストネームだけで呼ぶんだな。


 『いいえ、わかりません。致命的欠陥とは?』


 『アルブレヒトの避け方は、斬撃が届く場所を最低限後ろに引くことによって避けている。よって、とても正確に剣からの距離を測らなければ斬撃は当たるということだ。アルブレヒトは、距離感覚も優れているんだ。だから、今まで斬撃が当たった回数はとても少ないだろう?』


 『しかし、バロイ選手の斬撃は当たりましたよ?』


 『それは、剣が伸びたからだ』


 『剣が、伸びる?』


 『ああ、バロイは斬撃を出す前は、剣の付け根を持っていた。しかし、斬撃が当たる少し前に手を緩め、剣の柄頭に握り変えたのだ』


 よく見てるじゃん。


 というか、実況席からアリーナまで結構距離があるのに、そんな細かいとこよく見えるね。


 『それで、斬撃の範囲が変わり、アルブレヒト選手は対応できなかったと?』

 

 『そういうことだ』


 『第25試合を始めていこうと思います!北門から出てきたのは、力があり、知能もある、剣士の天敵蛮族王バロイィィィィィィ!』


 まるで、蛮族は知能がないみたいな言い方だな。

 

 『南門から出てきたのは、冷静沈着で、頭脳戦が得意な実質モヒ選手の上位互換、謎の仮面の騎士アルフゥゥゥ』


 モヒ、すごいイジられっぷりだな。


 俺もかもしれないが、司会者も人の心を折ってるよね。


 さて、謎の仮面と言われて、普通はどのような仮面を想像するだろうか。


 仮面ラ○ダーの仮面?


 怪盗がつけてそうな、目周りだけを隠すやつ?


 否、アルフの仮面はどちらでもない。


 アルフの仮面は、まるでミケーネの「アガメムノンのマスク」。


 あれは葬儀用だが。


 そして、金属光沢がある。


 絶対首が凝る。


 『両者、構えて下さい』


 俺は、毎度お馴染み中段。


 アルフは…………なんだ、あの構え方は。


 明らかにふざけてるよな。


 野球のバントの構え方なんて、剣の構え方じゃないよな。


 どこが冷静沈着だよ。


 『オッズは、アルフ選手が2.27倍、バロイ選手が1.79倍です。コングが鳴ったらスタートです!………』


 カーン


 コングが鳴ると同時に、アルフはあの構え方で俺に突っ込んできた。


 本当に、どこが冷静沈着だよ。


 「おー、らー!」


 バキッ


 は?


 アルフの剣のガード部分が肩に直撃した。


 「痛っ」


 アルフは、剣のブレイドの先を持っていたのだ。


 ガードの重量による遠心力で、まるでピッケルのように、肩当てに刺さる。


 肩当てから、少し血が滲んでいる。


 『バロイ選手ゥゥゥ、流石にアルフ選手の奇行を見抜けなかったようだぁぁぁぁぁぁ!』


 奇行か。


 俺もそう思うが、効果を発揮されては、ただの奇行だと言い切ることはできない。


 「みーたか。バロイとかーいう蛮族ーよ。少し、調子にーのってたんーじゃないか?」


 変な喋り方だな。


 ん?


 この、妙に伸ばす喋り方は………。


 「パラベラム公爵ですか?」


 ピタリとアルフの動きが止まる。


 「ナナナナナナナナナナナナナナナナンノーコトだ?」


 すんごい動揺してるな。


 どうやら当たりのようだな。


 “アルフ”は、アルフォンスの”アルフ”か。


 「なんでこんなところに来たんですか?」


 「い、やーな。ラザフォード学園のー社会見学で娘がここに来ーているからーな。様子を見に来たのーだ」


 親バカって奴か?


 「それにしーても、その声ーと目は、どーこかで……。ああ、エr…」


 バキッ

 

 言わせるものか。


 もう一発やっとくか。


 入念にな。


 バキッ


 『何か話していたようでしたが、超至近距離での戦いは、バロイ選手の勝利だぁぁぁぁぁぁぁ!』

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