31話 解説を知人がしている件
☆
翌日、闘技場。
この闘技場はバカデカく、選手全員がアリーナ内にいても、選手間が数m空くほどだ。
司会者が、音量強化用の魔石のついた道具、いわゆる魔導マイクを口元に近づける。
『レディース&ジェントルメン!今年もこの季節がやってまいりました!第243回、ドラグーン剣術大会ィィィ!』
なんかその言い方だと、第243回ドラグーン剣術大会が毎年あるように感じられるな。
「今年で243回目の開催になる、毎年恒例、ドラグーン剣術大会」とかの方が、趣旨が伝わりやすいと思う。
司会者の国語力の問題だな。
俺も他人のことを言える立場ではないが。
『本日、剣術大会1日目は、合計1602人の選手が九つのグループに分かれ、そのグループ内で争います!最後まで残った人間だけが2日目以降の出場権を獲得します!』
等分すると、一グループあたり178人か。
まあまあいるな。
ちなみに去年は7グループ×218人だったらしい。
それを考えると、今年の一グループあたりの人数は少なめなのかな?
『本大会の司会は私、メルドが。解説は、史上最年少で剣術検定8段をとった……』
ん?
『ストック=フォン=ランヤード様です!今回はよろしくお願いします!」
『ああ、よろしく』
…………。
え?
何でいんの?
まずいな。
学園都市から離れているとはいえ、知り合いがいるかもしれないのか。
えーっと、今日は俺が寮を出て8ヶ月ちょいだから………第二長期休暇か!
第二長期休暇とは、冬休みみたいなもの。
他にも、この大会に来てる生徒がいる可能性があるな……。
俺だとバレると死、ってこと考えると、厳しいな。
『えーっと、ランヤード様は、ラザフォード学園1年生の社会見学のついで、ということで解説を頼まれたらしいですね!』
『ああ、今日来る予定だった真の解説者が来なかったようだからな』
………。
社会見学だあ?
そんなん聞いてないぞ?
急に行事が出現したのか?
ふざけんなよ?
他にも知り合いがいる可能性があるとかの問題じゃない。
めっちゃ知り合いがいるってことじゃん。
『ところでランヤード様。貴方が1番尊敬している剣士は、ズバリ、誰なのでしょうか?』
『俺の同級生だったエルンという男だ。俺が本気でも、あいつには片手間だった。ここにはいないがな』
あのー。
ここにいるんですけど。
『同級生”だった”ということは、幼年部の?』
『いや、一般部のだ』
『それはどういうことでしょうか?』
『あいつは今、行方不明だ』
ここにいるけどね?
会わないけど。
『多分、今、ほとんどの町で指名手配されているはずだ』
『え?そこまでイカれた犯罪者なのですか?』
イカれたって何だよ。
司会、失礼だぞ?
『いや、あいつは………特に犯罪はしていない。手出しをしなくてもいいことに手出しをしてしまったんだ』
そんなに俺のことを話さないで欲しいな。
手出しをしなくてもいいことに手出しをした?
あの艦隊決戦の話じゃないか。
参戦したことバレてるじゃねえか。
寮の鍵でバレたのか?
あれだな。
「1人で戦況を変えたあいつは脅威だ!」っていう結論に至って、俺を消すことにしたんだろうな。
絶対にバレないようにしないと。
☆
『では早速、Aグループの試合を開催したいと思います!よーい、始め!』
Aグループの試合が始まったようだ。
ちなみに俺はDグループ、サーシャはBグループである。
出番があるまで、地下闘技場で待機である。
…………。
みんなすごい見てくるな。
まあ、俺の装備のせいだろうけど。
見た目が蛮族すぎるせいで、俺を中心とした半径3mほどの範囲に誰も近寄って来ない。
暇だなあ。
「エ…バロイさん!」
そう、声をかけてきたのは、もちろんサーシャ。
「あいつ、前回準優勝したサーシャ様と一緒にいるぞ?」
「何だ!あの蛮族は!」
周りの連中がざわめく。
「ああ、周りの人の事は気にしなくていいですよ?」
気にしなくていいって言われても、周りの人間が俺を見ながら剣の手入れしてたらねぇ。
嫌でも気になるよ。
「なにか用か?」
「い、いえ!何でもありません!ただ、一緒に居たくて………」
………。
やめろ。
そんな事言うんじゃない。
周りの人間が、今にも俺を斬ろうとしているぞ?
試合時間以外で加えるのは御法度とはいえ、殺気が漏れでまくってるぞ?
「バロイさんは、今回優勝するつもりですか?」
目立ったら身バレの可能性が上がるので、出来れば表彰台には登りたくないが、手を抜いて負けるのはそれはそれで他の参加者に失礼。
やるからには、本気でやるよ?
「ああ」
「そうですか………。バロイさんは、私を応援してくれますか?」
「もちろん」
『Aグループの勝者、アルブレヒト=フォン=ヴィッテルスバッハァァァ!』
ん?
今、兄の名前が呼ばれた気がしたような、しないような。
気のせいかな?
『それでは、Bグループに出場する選手は、速やかにアリーナ上で待機してください!』
「じゃあ、行ってきます!」
☆
『では、Bグループの試合を開催したいと思います!よーい、始め!』
始まったようだな。
正直、今のサーシャは余裕で勝てると思う。
多分、ストックにも勝てる。
あいつは、「メモメモ」に出てきた「破壊趨勢のサーシャ」よりも断然強い。
特に、力が段違いなのだ。
『おおっとぉ!サーシャ選手!20人ほどに集中攻撃を受けたが、一瞬で全員捌いてしまったぁぁ!流石去年の準優勝者だぁぁぁぁ!』
ほらね。
ただでさえスピードが尋常じゃないあいつに力が加わったのだ。
もし、「破壊趨勢のサーシャ」が今のサーシャと同じ強さなら、多分、俺は「メモメモ」を辞めていただろう。
理不尽すぎて。
『ランヤード様、サーシャ選手をどう思いますか?』
『ああ。彼女は異常だ。私と戦っても、彼女が勝つだろう』
『ということは、彼女の実力は8段以上だと?』
『そうなるな』
よくわかってるじゃないか。
『では、ランヤード様が尊敬している剣士、エルンと比べたらどうなりますか?』
何でそこで俺の話が出てくる?
『エルンの圧勝だろう』
『そこまで強いのですか?』
『ああ、師匠は最強だ!』
変な宣伝しないでもらっていいかな。
買い被りすぎだぞ?
多分、学園にいた頃の俺とサーシャが戦ったら、沼試合になること間違いなし。
俺の攻撃はサーシャが避けて当たらないし。サーシャの攻撃は俺が弾いて当たらない。
先にバテた方が負ける。
『んん???いつのまにか前回の優勝者のマール選手がサーシャ選手のそばで倒れている!Bグループの勝者は、サーシャァァァァァ!』
…………。
前回の優勝者を倒したのか。
おめでとう、サーシャ。
前回の雪辱を晴らせたようだな。
それにしても、「いつのまにか」で片付けられるマールとかいう奴がかわいそうだな。
ストックが俺の話ばっかしてるからだぞ?




