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29話 剣術大会に出ることにする件

☆

 俺は、”彼ら”の束縛の鎖を断ち切った。


 俺はもう、罪悪感で押しつぶされそうになっている前の俺ではない。


 以前のような純粋な俺は、もう死んだ。


 罪悪感を糧に生きる俺に変わったのだ。


 ただ、まだ大きな問題が一つ問題がある。

 

 俺は、王国から指名手配されているのだ!


 畜生め!


 どちらにせよ、元の生活には戻れないだろう。


 捕まったら殺されるだろうし。


 殺された後に引き渡される可能性もある。


 そんな中、俺がどれる行動は1つしかないよな!


 もちろん、ファーメル村に閉じこもることである。


 この村は辺境すぎて、俺の指名手配書が届いてないのだ!



☆

 「サーシャ。空き時間に剣の稽古をつけてくれないか?」


 俺が目を覚まして2か月。


 今は、村人達の農業の手伝いをしたり、工事の手伝いをしたりと主に力仕事をしていた。


 何で力仕事かって?


 筋肉を取り戻すためである。


 2か月前の俺は、筋肉がほぼ分解されてしまっていた。


 また鍛え直す必要があったのだ。


 そして、手伝いをする間に素振り。


 俺が、長い間続けてきた日課である。


 もちろん、俺が寮を出てからはしていないが。


 「え?何で私が剣をやってるってわかったんですか?」


 もちろん、「メモメモ」をやっていたからである。


 しかし、そう言うわけにはいかない。


 「君にはレオンを何回も殺されたからねえ!」なんて、言えるわけない。


 こういう時、なんて言うのが正解だろう。


 「……手のひらだよ。そのマメのつき方は、相当な使い手のそれだぞ?」


 これが正解。


 渋くて、我ながらカッコいいと思う。


 え?


 本当に剣士の手のひらの特徴をわかってるのかって?


 そんなわけないだろう?

 

 「そうですか……。わかりました。今日の夜に村の広場に来てください」


 よっしゃ。


 ありがたい。


 多分、今の俺では、サーシャに惨敗する。


 だが、それでもいい。


 何とか、学園の時の強さに戻しておきたい。



☆

 夜。


 松明が光る中、気づけば俺は夜空を見ていた。


 ………。


 こいつ、こんなに強いのか?


 俺が弱体化しているとはいえ、正面から打ち合って、いなされるのでも、避けられるのでもなく、押し負けるとは思ってもいなかった。


 俺の目が、彼女の動きを追えていた事だけは吉報である。


 「大丈夫ですか、エルンストさん!」


 「大丈夫」


 身体はね。


 精神的にちょっと傷ができたけど。


 だって、俺は、剣の腕においてで負けた事はなかったんだから。


 「そうですねぇ。私の動きを目で完璧にとらえれているのは驚きました。でも、根本的に力が足りていないのと、力が足りていない状態で力があること前提の剣術をしていたのがよくないですね」


 「はあ……ありがと。サーシャは強いなあ」


 俺、本当に弱くなったなあ。


 目で追えているからこそ、身体が動かないのに腹が立つ。


 目で追えているからこそ、筋力がないのが腹が立つ。


 「いえいえ!エルンストさんが力がある状態なら、多分私は負けていましたよ?」


 謙遜しちゃってさ。


 いい子じゃないか。


 俺は、こんな子を何十回も拷問官に引き渡していたのか。


 心が痛む。


 

☆

 俺が寮を出て、8か月が経った。


 筋力自体は、以前の7割程度まで戻ってきたと思う。


 サーシャの剣に押し負けることは無くなったし、それどころかサーシャの剣に押し勝つこともできるようになってきた。


 身体も動くようになってきた。


 サーシャの動きに身体がついていける。


 5回に2回はサーシャに勝てる。


 そんな中、サーシャから俺に、あるお誘いがくる。


 「来週ドラグーンで行われる剣術大会に出ませんか?」


 ドラグーンは、ファーメル村の西北西1200kmの場所に位置する大都市。


 出たいのはやまやまなんだけどね。

 

 多分、行ったら殺される。


 サーシャには言ってないけど、俺、指名手配されてるから。


 「いやー、ちょっとー」


 「何か不都合なことがあるのですか?」


 「んー。俺の素性がバレないようにした状態で出場できる?」


 「ああ、毎年何人か仮面をつけて出ている人を見かけるので、顔は隠していいのだと思います。名前は自己申告制なので、偽名を使えばいいです」


 SNSみたいだな。


 アイコンに自分の顔は載せずに、アカウント名は本名にしなくていいって感じか。


 ん?


 こいつ、「毎年見かける」って言ったか?


 「え。サーシャって、毎年剣術大会出てるのか?」


 「はい!これでも私、昨年は準優勝だったんですよ?」


 ………。


 そりゃ強いわ。


 いや、待て。


 2人中2位の可能性がある。


 「昨年は何人出場したんだ?」


 「えーっと、1500ちょっとだったと思います」


 …………。


 失礼なこと考えてすいません。


 「出るよ」


 「本当ですか?やった!今からすぐに出発しましょう!」

 

 「え、待って。今から?」


 「はい!」



☆

 「ドラグーンにはこれで行きます!」


 そう言って、彼女が持ってきたのは、2台の二輪。


 いわば、魔導バイク。


 四輪だったら「メモメモ」にもあるのだが、二輪は初めて見た。 


 サーシャはその一台を、俺に寄越してきた。


 「エルンストさん!私のやることを真似して下さい!ここに棒のようなものがありますよね?」


 うん。


 ハンドルね?


 「ここを両手で持ちます」


 はいはい?


 「で、このふわふわなところに跨ります」


 サドルね?


 ヨッコラセと。


 で、どうやって動かすんだ?


 「さっきの棒の右手側に魔力を込めると前進、左手側に魔力を込めると徐々に止まります」


 「あ、サーシャ。俺、魔力ないんだけど」


 「へ?」


 想定外だったようだ。


 悪かったな!


 「うーん。じゃあ仕方ないないですね!エルンストさんはふわふわなところの後ろの荷物置きに乗って下さい!運転自体は私がします!」


 2ケツかよ。


 危ないよ?


 「ヘルメットは?」


 「え。何ですか、それ」


 「……ならせめてさ。長ズボンを履かせてよ」


 「事故らなければ大丈夫です!」


 ………。


 俺、無事にドラグーンまで行けるのかなあ。


 ………5日後。


 「さあ!ドラグーンにつきましたよ!」 


 結論から言おう。


 まじで怖かった。 


 まず、魔導バイクは後輪駆動のようで、サーシャが途中でウィリーをし始めたのだ。


 多分、俺が後ろにいるのを忘れていたのだろう。


 サーシャにしがみつくのもどうかと思い、俺は荷物置きを必死に掴んでいた。


 俺の頭が地面スレスレをいき、流石に死んだと思ったね!


 ヘルメットもないし!


 次に、サスがカス。


 荒野とか、山道とか、森とかを通過する時の揺れが尋常じゃない。


 サーシャは慣れているようだし、サドルに跨っているから少々楽だろうが、魔導バイク初挑戦でかつ、座っているのが荷物置きの俺には厳しすぎた。 


 このまま文句をあげていくと無限にあがってきそうだから、次で最後にさせてもらおう。


 サーシャ。


 ハンドルから手を離すな。


 身体の荷重移動でバランスを保っていたようだが、俺の心臓に悪い。


 まじでやめてくれ。

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