28話 生かされた件
☆
……………。
……。
天井?
どこの天井だ?
俺は、多分死んだ。
きっと死んだ。
生きているのなら、苦しまなければならない。
自分から死ぬのはただの逃避だ。
自然と死ぬまで、苦しみ続けなければならない。
皮膚の色は、普通の色に戻っている。
灰色ではない。
「お目覚めですか?」
俺にそう語りかけてきたのは、白一色の服を着た赤い長髪の女。
冥界の人間か?
「ここは、どこだ?」
「ここはファーメル村の診療所です。エルンストさん」
ファーメル村。
デウロにあったな。
確か、学園都市の南南西約2500kmのところにある、超辺境の村……秘境だったよな。
俺はまだ、生かされるのか。
「何で俺は、生きているんだ?」
「ああ。あなたが近くの森で死にかけになっているところを猟師の方が見つけて下さって、この診療所まで運んで来たんです。あまりにも衰弱していたので、1日に4回ほど喉に管を通し、流動食を続けました。そのおかげか、ここに来た時は私が片手で持ち上げれてたのが、今では両手を使うようになりました」
俺は、ついさっきまで米が材料の流動食を入れられてたのだろう、胃がたぷたぷする。
ん?
さっき、こいつは何で俺を「エルンスト」と呼んだんだ?
ここでも身バレか?
「お前は…」
「お前ではありません!サーシャです!」
サーシャ?
「メモメモ」にサーシャというファーメル村出身のキャラがいたな。
………。
そいつの二つ名は「破壊趨勢のサーシャ」。
俺、エルンストよりも3歳年上で、職業は暗殺者である。
髪は赤い長髪で、顔にはいつも黒いマスクがつけられている。
剣はストックほどではないが、めちゃくちゃ強い。
戦闘スタイルは、両手に短剣の速度特化。
斬撃1つ1つの重さはあまりないが、動きが異常に速い。
ストックよりも速い。
剣検でいくと、7段相当だろう。
多くて1ゲームに1回襲撃してくる。
襲撃してくる場所は基本的に王宮なのだが、いつ襲撃してくるのかは、ルリアが4年生より後の時期でランダム。
それまでにゲームオーバーになれば、こいつの姿を見ることはない。
王宮で気を抜いていたら、急にこいつが飛んできて、レオンが瞬殺されてゲームオーバー。
こいつを倒せたら、こいつは拷問部屋送りになって、2度と姿を見ることはない。
だから、多くて1ゲーム1回なのである。
この時期的には………
「サーシャ?今、あんたのお母さん、歩けなくなったり足がむくんでたりする?」
「な、なぜそれを……」
はい、こいつは「破壊趨勢のサーシャ」で確定。
何でそれを知ってるかって?
このファーメルには、「王家の呪い」という呪いに溢れている。
この「呪い」はラザフォード王国が建国されると同時にこのファーメルで発生した。
だから、ファーメルの人間には、「呪い」はラザフォード王家の仕業だと語り継がれている。
「王家の呪い」にかかった人間は、日に日に弱っていき、歩けなくなったり、心不全になったり、最悪の場合死に至ったりする。
「王家の呪い」で母親を亡くしたサーシャは、王家のせいで母親が死んだと考え、王家の人間を襲った………という内容を、サーシャを拷問した拷問官から聞いた。
それを聞いた後、呪いの内容が気になって、魔導船でファーメル村に行ってみたのだが、すぐに原因がわかった。
ここの人間の主食は白米で、それと一汁一菜が一食の基本。
ここまで言うと、気づいた人もいるだろう。
保健や家庭科、歴史なんかで出てくる「江戸患い」、つまり脚気である。
多分、ラザフォード王国ができた時に、偶然ここの人間は玄米ではなく白米を食べ始め、脚気が広がったのだろう。
つまり、王家は何も関係ない。
「『王家の呪い』でしょ?」
「はい……。日に日にお母さんが弱っていって、もう立てなくなって……」
「治す方法あるよ?」
「ほ、本当ですか?エルンストさん、教えて下さい!お願いします!」
サーシャは泣きながら俺に懇願する。
「玄米食べな。出来るなら副菜を増やした方がいい」
「わ、わかりました!やってみます!」
「ね、ねえ。俺が何で『エルンスト』だと……」
「服に書いてありました!」
服?
………。
本当だ。
裏地に書いてあった。
☆
2週間ほど経つと、俺の体力は回復してきた。
まだ立てないけど。
「エルンストさん!『呪い』の対処法を教えて下さって、ありがとうございます!」
サーシャのお母さんは立てるようになったそうだ。
………そんな脚気って早く治るものだっけ。
まあ、ヴァント曰く今の人間ってほとんど改造人間の子孫らしいし、前世とは違うのだろう。
………。
ヴァント………。
「エルンストさん、どうしたんですか?涙なんか流して」
「えっ」
俺は頬を手で触る。
俺の頬は濡れていた。
なぜだ?
なぜ俺は泣いている?
後悔はなかったはずだろ?
俺は罪を償わなければいけないんだろ?
苦しまないといけないんだろ?
俺は、あそこにいちゃいけない人間なんだ。
大量殺人鬼なんだから……。
「なあ、サーシャ。俺が実は大量殺人鬼だったらどうする?」
「エルンストさんがですか?………そうですねえ。別にどうもしないと思いますよ?」
「何で?俺は君を殺すかもしれないんだぞ?」
「私は大量殺人鬼のエルンストさんなんて知りません。私が知っているのは、母の王家の呪いの対処法を教えてくれた、優しいエルンストさんなので」
俺はその言葉を聞いた瞬間、泣いた。
大泣きをした。
泣いてしまった。
この2か月の感情が、いっきに解放された。
言葉を発すると、芋づる式でどんどん次の言葉が出てくる。
サーシャは、その、俺のめちゃくちゃな言葉をずっと聞いていた。
何分も、何時間も。
☆
その夜、俺は夢を見た。
“彼ら”の夢だ。
相変わらず俺の足にしがみつき、俺を襲ってくる。
今までは、それから距離をとることはしても、抗わなかった。
いや、ほぼ受け入れていたと言った方が正しい。
もっと正確に言うと、抗う事を諦め、受け入れていた。
俺はいつのまにか、抗うことから逃げていたのだ。
しかし、今回は”彼ら”に争った。
襲いかかってくる”彼ら”を返り討ちにした。
ずっと、「ごめんなさい」って言いながら………。
気がつくと、”彼ら”はいなくなっていた。
………ありがとう。
………ごめんなさい。




