26話 学園に来ない件
☆
おかしい。
休み明けからエルンは学園に来なくなった。
あいつにとってなんの面白みもないであろう模擬宇宙戦は、先日の「セーンドイル宙域の戦い」のせいで無くなった。
あいつにとっては、「セーンドイル宙域の戦い」の”おかげ”で無くなったと言っても過言ではないだろう。
あいつが言ったとおり、本当にレンツとの戦闘になった。
双方ミャーチを含めると10万を超えている大戦闘だったらしい。
父上に魔導通信で戦闘の様子を聞いたら、
「訳がわからなかった」
と。
父曰く、こちら側の左翼が押されている時に、急に敵右翼の先端が消滅し、その後、謎の光の尾を確認。
900m級の周辺の艦艇が急に沈み、「ハティ」が降伏。
そして、勝利に至ったと。
意味がわからない。
あいつは、自分が殴られるところを「番衛門」とかいうやつに見せられても、反応が薄い。
精神は強靭だ。
しかも、あいつは剣の腕は一流。
あのストックでさえ負けたそうだ。
そんな奴が拉致されたり、殺されたりするはずはない。
あいつは、自分から学園に来ていないのだろう。
私はあいつに恩がある。
レオンが腐っていたことを、身をもって教えてくれたからだ。
あいつは、私に教えたつもりなどないのだろうが。
それでも、私はあいつに恩を感じている。
☆
次の日も、また次の日もあいつは学園に来なかった。
学園長室に行って詳細を聞こうとしても、
「そんなのこっちが知りたいですよ」
と言われた。
どうやら、陛下もエルンの行方を知りたいようだ。
理由はわからない。
きっと、実践魔法演習の時に学園長室に呼ばれたことと関係しているのだろう。
ニック殿下は、
「今回の戦いは、あいつがいなかったら勝てなかっただろう」
と。
大袈裟だと思うか?
私は大袈裟だと思えない。
あいつがレンツ王国のファイヤーボールの射程を知っていなければ、きっと一方的な戦闘になっていただろう。
一方的な敗北。
そして、デウロの占領。
実質的なラザフォード王国の滅亡に繋がっていた可能性がある。
それを、阻止したのだ。
あいつは胸を張っていい。
一つ気になるのは、やはり情報源だろう。
魔力がないなら、大精霊と契約できるはずがない。
おそらく、「番衛門」とかいう大精霊は存在しない。
ただ、大精霊でないことはわかっても、あの半透明な女の正体はわからないのだが。
辻褄が合うのは、エルンは第三国からのスパイでその情報を流すように命令されていた、というものだ。
第三国からすると、どちらかの圧勝に終わることは面白くない。
どちらも相当な被害を出し、共倒れになるのが1番だろう。
だが、エルンは「エルンスト=フォン=ヴィッテルスバッハ」。
本人は、アレで隠し通せたつもりなのかもしれないが、間違いないだろう。
彼は、間違いなくこの国の生まれなのだ。
ということは、怪しいのは「エルンスト」が行方をくらませていた10年間。
その間に、あいつは第三国で間者としての訓練を受け、デウロに潜り込んだ。
これなら、ある程度は納得できる。
だが、納得ができるだけだ。
その予想に何の信憑性もない。
「エリカ様。もう2日もお寝になっていないでしょう?お身体に障りますよ」
「ああ、ミライ。寝てないんじゃない。寝れないんだ」
☆
「師匠の寮にいこう」
そう言ったストック。
女である私が男の寮に行くのは気が引けるが仕方がない。
「平民…………」
この数日間、シャルロッテは揶揄う人間が消えてしまってすっかり覇気を失っている。
まあ、彼女はエルンに揶揄っても揶揄い返されるのだが。
いや、彼女はエルンに揶揄われたいのかもしれない。
今まで、実家の軍事力のおかげで誰にも反撃されなかったシャルロッテ。
揶揄われるのが新鮮なのだろう。
カイルとハンスは、いたって普通である。
昨日、彼らにエルンが心配じゃないのか尋ねても、口を揃えて、
「いや、大丈夫でしょう。エルンだよ?」
と。
妙に説得感がある。
あいつと同じ平民のルリアは………情緒不安定。
こいつはかつて、エルンを刺そうとしたそうだ。
理由はわからない。
ただ、あいつを恨んでいるのは違いないだろう。
それなら、時々笑い声をあげ、なぜ急に真顔になる?
そして、なぜ急に怒り出す?
☆
コンコン
「師匠?」
ストックがあいつの寮の扉を叩いても、返答はない。
扉を開けようにも、鍵がかかっている。
「エルン!いないのか?」
「平民ーーー!」
「ふふっ、エルンさーん」
私たちがどれだけ叫んでも、あいつは出てこない。
塞ぎ込んでいるのだろうか。
それとも、そもそもこの寮にはいないのだろうか。
数分後、扉の向こうから、
『植木鉢の下を見てみてください』
という声が聞こえる。
中に誰かいるのだろう。
植木鉢の下を見ると、そこには鍵があった。
それでエルンの寮の鍵は開いた。
ガチャン
中に入ると、真っ暗。
どこにも光源はない。
「師匠ー!どこだー!」
寮の隅々を探しても、あいつの姿はない。
あいつは、この寮を出て行ったのだ。
なら、さっきの声の主は誰だ?
『もうわかりましたよね?マスターは出ていったのです』
リビング側から声がする。
誰かいるのか?
いや、それなら最初探した時に見つかるはずだ。
リビングの机の下を覗いた時、そこには腕輪があった。
あいつがつけていた奇妙な腕輪だ。
ということは、それには”何か”が住み着いている
「『番衛門』とかいったな。エルンはどこにいる?」
『さあ?』
「さあ、だと?お前はいつもエルンといたはずだ!」
『”あの”マスターは、死にましたよ?』
「なら、今のお前には別の主人が存在するのか?」
『はい』
…………。
エルンが死んだ?
そんな馬鹿な。
なぜ死んだ?
いや、なぜこいつは、エルンが死んだことを知っているんだ?
エルンの場所はわからない、だが、死んだことは知っている?
どういうことだ?
「本当にエルンは死んだのか?」
『はい。”あの”マスターの最後を私は見ました』




