27話 行方を晦まそうと思う件
☆
俺はあの戦いのあと、寮に帰ってボロ布に着替え、ベットにうつ伏せになっていた。
ボロ布は肌触りは悪いが、堅苦しくない。
『マスター。マスター』
「………何だよ」
『後悔してますか?』
後悔?
あの戦いに参戦したことを?
後悔………。
「してるな」
あの虐殺は仕方がなかったのだと割り切ることができない。
俺は、初めて人を殺したのだ。
1人や2人ではない。
数十万、数百万の人間を殺したのだ。
『平時に大量の人を殺せば大罪人、戦時なら英雄です。マスターは大量の人を殺して、デウロの人間を救ったのですよ?だから、マスターは英雄です。それでいいじゃありませんか』
よくない。
全然よくない。
全然フォローになってない。
『マスター』
「うるさい!さっきから何なんだよお前は!そんなに俺に人殺しをさせたいのか?」
『人殺しをさせたいとは言っていません。極論、マスターは人を殺してはいません。直接殺したのは私ですよ』
「何を言いたいんだよ!剣で人を殺したら剣が悪いのか?素手で人を殺したら腕が悪いのか?」
俺はどこかに通信リングを投げ、玄関に向かった。
明らかに、俺は冷静ではない。
だが、この熱を冷まそうとは思えない。
『マスター。寮の鍵は学園が位置を特定する魔石が入っています。行方をくらますなら、鍵は置いていった方がいいですよ』
監視されていたのか、俺は。
ラムラダに乗った時、宇宙服のポケットに鍵を入れたのは失敗だった。
あの戦闘に関わったことがバレる。
バレてしまう。
俺は、鍵を外の植木鉢の下に置き、敷地を出た。
☆
なるべく遠くに行こう。
その一心で海峡を泳ぎ、荒野を歩き、山脈を越えた。
金も持たずに寮を出たため、俺は草を食べ、魚を素手で獲り、襲ってきた熊も食糧にした。
俺は寮を出たのを後悔していない。
夜、毎晩のように同じ夢を見る。
血だらけの人間たちが、「俺を殺したのはお前か」と俺を襲ってくる夢。
「逃げるな」と俺の足を掴んでくる夢。
“彼ら”に真剣に向き合うことができるのは、周りに人間がいない今。
心細くないかって?
心細いよ。
でも、”彼ら”に真剣に向き合うためには、心細い方がいいのである。
周りで俺を励ます人?
そんな人間はいらない。
なるべく長く、”彼ら”と向き合っていなければならない。
励まされて、気が少しでも紛らわされてしまうのは、”彼ら”に失礼だ。
ちなみに俺は、一度しか町に行っていない。
理由は簡単。
指名手配されていたためである。
寮を出て1週間ほど経った時、近くに町があったので行ってみたのだが、指名手配されていた。
とんでもないほど俺に似た面相書きを添えて、“エルンスト。生死は問わず”と。
なぜかわからないが、多分捕まったら殺される。
そのため、彼らと向き合う時間を減らさないために、俺はそれから町に行っていない。
帰りたいとは思わないのかって?
全く思わない。
そもそも帰り道なんてわからないし、俺のせいで家に帰れなかった人が大量にいる。
帰ってはいけないのだ。
俺はどんどん痩せていく。
肋骨が浮き出てくる。
肌の色もおかしい。
灰色に近い。
☆
寮を出て2か月ほど経った時、靴が死んでしまった。
仕方がない。
裸足で歩いてみるが、森は足場が悪くてうまく歩けない。
食事のペースは、良くて1日に1回である。
しかも、最近食べているのは草や木の実ばかり。
いつのまにか、体力が限界を迎えていたのだ。
これは、死ぬな。
血まみれの人たちが、俺を地面に引きずり込もうとしてくる。
「お前も来い」って。
長く向き合って、長い苦しみを”彼ら”への贖罪したかった。
だが、俺の体は限界のようだ。
多分、もうすぐ死ぬ。
俺は、十分な贖罪をできたのだろうか。
数百万を殺した俺の罪が、たった2か月の苦しみで許されるのだろうか。
そんなわけはない。
俺自身の死を以て、贖罪としよう。




