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27話 行方を晦まそうと思う件

 俺はあの戦いのあと、寮に帰ってボロ布に着替え、ベットにうつ伏せになっていた。


 ボロ布は肌触りは悪いが、堅苦しくない。


 『マスター。マスター』


 「………何だよ」


 『後悔してますか?』


 後悔?


 あの戦いに参戦したことを?


 後悔………。


 「してるな」


 あの虐殺は仕方がなかったのだと割り切ることができない。


 俺は、初めて人を殺したのだ。


 1人や2人ではない。


 数十万、数百万の人間を殺したのだ。


 『平時に大量の人を殺せば大罪人、戦時なら英雄です。マスターは大量の人を殺して、デウロの人間を救ったのですよ?だから、マスターは英雄です。それでいいじゃありませんか』


 よくない。


 全然よくない。


 全然フォローになってない。


 『マスター』


 「うるさい!さっきから何なんだよお前は!そんなに俺に人殺しをさせたいのか?」


 『人殺しをさせたいとは言っていません。極論、マスターは人を殺してはいません。直接殺したのは私ですよ』


 「何を言いたいんだよ!剣で人を殺したら剣が悪いのか?素手で人を殺したら腕が悪いのか?」


 俺はどこかに通信リングを投げ、玄関に向かった。


 明らかに、俺は冷静ではない。


 だが、この熱を冷まそうとは思えない。


 『マスター。寮の鍵は学園が位置を特定する魔石が入っています。行方をくらますなら、鍵は置いていった方がいいですよ』


 監視されていたのか、俺は。


 ラムラダに乗った時、宇宙服のポケットに鍵を入れたのは失敗だった。


 あの戦闘に関わったことがバレる。


 バレてしまう。


 俺は、鍵を外の植木鉢の下に置き、敷地を出た。



 なるべく遠くに行こう。


 その一心で海峡を泳ぎ、荒野を歩き、山脈を越えた。


 金も持たずに寮を出たため、俺は草を食べ、魚を素手で獲り、襲ってきた熊も食糧にした。


 俺は寮を出たのを後悔していない。


 夜、毎晩のように同じ夢を見る。


 血だらけの人間たちが、「俺を殺したのはお前か」と俺を襲ってくる夢。


 「逃げるな」と俺の足を掴んでくる夢。


 “彼ら”に真剣に向き合うことができるのは、周りに人間がいない今。


 心細くないかって?


 心細いよ。


 でも、”彼ら”に真剣に向き合うためには、心細い方がいいのである。


 周りで俺を励ます人?


 そんな人間はいらない。


 なるべく長く、”彼ら”と向き合っていなければならない。


 励まされて、気が少しでも紛らわされてしまうのは、”彼ら”に失礼だ。


 ちなみに俺は、一度しか町に行っていない。


 理由は簡単。


 指名手配されていたためである。


 寮を出て1週間ほど経った時、近くに町があったので行ってみたのだが、指名手配されていた。


 とんでもないほど俺に似た面相書きを添えて、“エルンスト。生死は問わず”と。


 なぜかわからないが、多分捕まったら殺される。


 そのため、彼らと向き合う時間を減らさないために、俺はそれから町に行っていない。


 帰りたいとは思わないのかって?


 全く思わない。


 そもそも帰り道なんてわからないし、俺のせいで家に帰れなかった人が大量にいる。


 帰ってはいけないのだ。


 俺はどんどん痩せていく。


 肋骨が浮き出てくる。


 肌の色もおかしい。


 灰色に近い。



 寮を出て2か月ほど経った時、靴が死んでしまった。


 仕方がない。


 裸足で歩いてみるが、森は足場が悪くてうまく歩けない。


 食事のペースは、良くて1日に1回である。


 しかも、最近食べているのは草や木の実ばかり。


 いつのまにか、体力が限界を迎えていたのだ。


 これは、死ぬな。


 血まみれの人たちが、俺を地面に引きずり込もうとしてくる。


 「お前も来い」って。


 長く向き合って、長い苦しみを”彼ら”への贖罪したかった。


 だが、俺の体は限界のようだ。


 多分、もうすぐ死ぬ。


 俺は、十分な贖罪をできたのだろうか。


 数百万を殺した俺の罪が、たった2か月の苦しみで許されるのだろうか。


 そんなわけはない。


 俺自身の死を以て、贖罪としよう。

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