23話 第二王子が、意外と冷静じゃなかった件
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「学園長!学園長!」
俺たちは、駆け足で学園長室に向かった。
「な、何だね!」
「至急陛下と連絡をとって下さい!艦隊が現れました!」
「艦隊?何のことだ?」
「アイリス王女です!」
「ああ、アイリス王女なら、今さっきゲートを出たな。それは軍用魔導水晶でも確認済みだ」
なぜそんなに落ち着いていられる?
アイリスがゲートを出たことが確認できているなら、艦隊も確認できるはずだ。
艦隊が出てきて、それでも落ち着いてられるだけの戦力を集めたというのか?
「ならどうして?」
「アイリス王女は『ハティ』という船で来た。後続は確認されなかったぞ?」
後続がいない?
そんなはずはない。
もしそうなら、ヴァントがミスをしたことになる。
そんなの、あり得るのか?
「うるさい!師匠が陛下に連絡を取れと言っているのだ!」
少々過激だが、今回はもっと言ってやれと思ってしまう。
事態が事態だからな。
「何を言っている!陛下に頭を下げられたからって、調子に乗っているのか!艦隊が現れた?誰がそんな話を信じるというのだ!」
「なんだと!」
こりゃダメかもしれん。
連絡をとってすらくれないのか。
「…………おい、学園長」
そう言ったのはニック。
「殿下!この平民が生意気なんです!言ってやって下さい!」
ニックは、学園長に近づいていく。
何をする気だ?
「殿下?」
バギッ
「にゃ、にゃにしゅるんでしゅか!殿下!」
ニックは学園長を殴ったのだ。
これには流石に俺も驚いた。
ニックは、一言でいうと「冷静沈着」。
もう一言追加すると、「臆病」。
これは、昼食の時の様子を見てもわかるだろう。
「メモメモ」では、人を殴ることなんてしなかった。
「馬鹿者が!物事は常に最悪のことを考えなければならないのだ!軍用魔導水晶で確認されなかった?肉眼で見たのか?それはただ、『ハティ』の魔力波しか確認できなかったということだ!」
「殿下!魔導船は航行中に強力な魔力波を発します!そのため、魔力波が確認できなかったということは、そこに魔導船はないというのと同じことです!授業で習ったんじゃないですか?」
「ああ、そうだな!だがな、世の中には精神干渉魔法というものがある!」
精神干渉魔法?
ルリアが俺に使ったやつだろ?
「精神干渉魔法?魔導船に催眠でもかけるんですか!」
「お前はあれの原理を知らないのか!」
精神干渉魔法の原理?
魔力波の波形を弄るってやつだろ?
………。
そういうことか!
ノイキャンか!
「超強力な精神干渉魔法を魔導船に使えば、魔導船の波長を消すことができるかもしれない!」
「そ、そんなこと、不可能です!」
「理論的には可能なのだ!」
このあと、1時間ほど口論が続いた。
ニックは、ホワイトボードまで持ってきて、学園長に説き続ける。
俺は非常に面白いと思ったから聞いていたが、ハンスとカイルは半寝。
ストックに関しては素振りをしていた。
そしてついに……
「わ、わかりました。殿下。陛下に連絡をとります」
学園長が折れたのだ。
スカッとした。
「エルンだったな、これでよかったか?」
「ええ、ニック殿下、ありがとうございます!」
「いや、俺に敬語なんて使わなくていいし、ニックでいいぞ?」
「そうか、わかった。サンキューな!ニック!」
☆
次の日の朝の授業は、平民校舎と貴族校舎合同の、グラウンドでの実践魔法演習だった。
実践魔法演習とはその名の通り、魔法を実際に使用する授業である。
俺は魔法が使えないため、もちろん見学である。
体育座りで端に座り続ける。
「いいなー、みんな。魔法使えて」
『マスター。私という力がありながら、新人類を羨むのはやめて下さい』
「何だよ。妬いてんのか?」
『はい』
そっか、妬いてんのか……。
妬いてんの?
まじで?
こいつが?
「天を裂く黄金の雷鳴、一瞬の閃光にその命を捧げよ!ライトニング・ボルト!」
「偉大なる氷の大精霊よ!我が敵を凍らせたまえ!アブソリュートゼロ!」
「煉獄の炎よ、灰すら残さぬ無慈悲な裁きをここに!ファイヤーアロー!」
「天上の光よ、穢れし魂を射抜き、聖なる静寂へと導きたまえ!ホーリー・レイ!」
……。
前言撤回。
だせえわ。
めっちゃだせえ。
詠唱がとにかくダサい。
みんな必死な顔してやってるけど、ダサい。
俺は前世で、自分の部屋でこんなことしてたのか。
15年経っても恥ずかしいわ。
………そういえば、ルリアが俺に精神干渉魔法使った時は、目が光るだけだったな。
特に詠唱とかしてなかったな。
ただ波形を弄るだけだから、必要ないのだろうか。
「特待生!どこにいる!」
「ココでーす」
「学園長がお呼びだ!学園長室にいけ!」
「はーい」
今度は何だよ。
大声で呼ばれたせいで、周りがざわつく。
「あの特待生、今度は何をやらかしたんだ!」
「シャルロッテ様を泣かせて、レオン様の王位継承権を剥奪させて、今度は何をするんだ!」
ちょっと待て。
シャルロッテを泣かせたのは認めよう。
でも、俺がレオンの王位継承権を剥奪させたんじゃないよ?
勝手に剥奪されたんだよ?
俺は蹴られただけ。
「あの人、私たち平民の希望だわ!」
「カッコいいよな!」
俺をそんな風に思ってくれてたやつもいるのか。
ちょっと嬉しいな。
………。
いつの間にか目立っちゃってるね。
目立ちたくなかったのに。
☆
コンコン
「失礼しまーす」
ガチャリ
「えっ」
そこにいたのは、学園長だけではなかった。
国王、ライアン=フォン=グロック宰相、アルフォンス=フォン=パラベラム公爵、ギュンター=フォン=ガーランド伯爵もいた。
国王と、最後の2人はわかるだろう。
アルフォンスはエリカの、ギュンターはシャルロッテの父親である。
………。
2人とも、俺に娘を泣かされている。
俺、殺されるかもしれん。
ライアン宰相は、実質的なこの国の陰の支配者である。
この国の政策の7割はこいつが考えている。
正真正銘の内政の化け物である。
国の主要人物が、俺の通うラザフォード学園の学園長室に集まった。
そして、その中に平民の俺が1人………。
ちなみに学園長は男爵な!
これから話されることは、一語一句が国の命運を変えていくのだ。




