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21話 皆機嫌が悪い件

 この日の夜。


 ベットに横たわって、ホログラムのヴァントと話していた。


 『マスター。私は「ヴァント」です』


 ヴァントは、俺が「大精霊」だの「ヴァンえもん」だのと呼んだのを根に持ってるようだ。


 ごめんて。


 「今日は色々あったな」


 『はい。マスターがどれだけ皆から嫌われているのかがよくわかりました』


 ……。


 そうだね!


 「でもさ、カイルとかハンスとかストックが俺側だったのは嬉しかったなあ」


 『それが不思議でたまりません。マスター側についたところで、いいことなんかないでしょうに。マスターは性格がメビウスの輪ですからね』


 こいつ、俺のこと嫌いなんじゃないかと思うことが時々ある。


 性格がメビウスの輪って酷いなあ。


 ひん曲がってて、捻じ曲がってるってことだろ?


 俺は、伯爵令嬢を涙目にしたくらいしか、自分ねじ曲がってんなーって思ったことがない。


 エリカを泣かせたのは別になんとも思っていない。


 ……そういえば、保健室でヴァントがエリカを庇ったのは意外だったな。


 ヴァントのことだから、『マスター、やはり新人類はゴミです!滅ぼしましょう!』って言うかと思ってたんだけど、想定外だった。


 「ヴァント、今日、ルリアはナイフ持ってた?」


 『はい。9cm刃が2本、5cm刃が6本ありました』


 前より重武装になってない?


 「毒は塗って…」


 『ましたね』


 うん。


 俺を殺す気満々だよね。


 『なぜマスターを刺さなかったのかが気になります』


 そんなに殺されて欲しかったのかな?


 でも、確かにその通りである。


 なぜ俺を刺さなかった?


 俺は全身青痣だらけで動けないから、ナイフを刺すのにはもってこいだと思うんだけど。


 ………。


 別に刺してくれってことじゃないよ?



 同じ頃、ルリアは、自分の寮の部屋の机に伏せていた。


 その顔は、少し青い。


 「ハティですって?ふざけんじゃないわよ!来年のはずでしょ?」


 ルリアは恐ろしかったのだ。


 「私はあのイベントをクリア出来なかったのよ?だから、その前にレオンを落とそうと思って精神干渉魔法を覚えても、あいつのせいでそもそも特待生にもなれなかったし、取り巻きに邪魔されるから精神干渉できないし、しまいにはレオンは王位継承権を取り上げられるし!」


 ガン


 ルリアは机を叩いて立ち上がる。


 「エルンってやつは明らかに私と同じ転生者だ。じゃないと、レンツ王国の戦力なんてわからないはず!ファイヤーボールの射程だって、正確にわかるはずがない。でも、あいつは『最低1万隻』って言ってたわよね?あのイベントのラザフォード王国軍が12000隻くらいだったはず。じゃあ、あいつはあのクソイベをクリアしたってこと?」

 

 ルリアの顔の青色は、少しずつ赤くなっていく。


 生気と怒りが同時に湧き上がる。


 「本当に、何なのよ!あいつは!何がしたいの?私の邪魔をしたいの?そうじゃないの?すぐにでも刺してやりたいけど、私の技術じゃ無理だし、あいつがいないとレンツとの戦闘も乗り越えれないかもしれないし!どうしたらいいのよ!ねえ、神様、何で私を『メモメモ』の世界に転生なんてさせたの?私に、何をして欲しかったの?ねえ!私を苦しめたかったの?何で私を『ルリア』に選んだの?ねえ!」



 同じ頃、エリカの寮。


 「エリカ様。お顔の色が悪うございます。いかがなされましたか?」


 「ミライ………。私は、何を間違えたのかな」


 ミライは、エリカが小さい頃から世話をしていた使用人である。


 「何のことでしょう。エリカ様は間違えてなどおりませんよ?」


 「今日、エルンっていう特待生に言われたんだ。『公爵様の娘が無償で平民に優しくするはずないだろ』って。私は、私たちはどれだけ傲慢と思われてるのだろう」


 「特待生ということは平民ですか?不敬ですね」


 「そういう問題じゃない!平民だからなんだと言うんだ!じゃあ、貴族はいつから偉くなったんだ!………すまない。大声を出してしまった」


 エリカの胸には、学園長室で聞いた国王の言葉がつっかえていた。


 「いえいえ、それでエリカ様の気が紛れるのでしたら」


 彼女は、気を紛らわせるために大声を出したのではない。


 この、今の現状に腹が立ってしまっただけだ。


 「………レオン殿下が王位継承権を失ったのは知っているか?」


 「いいえ、初めて知りました」


 「今から、パラベラム家の権力は弱くなる。私の婚約者だった人間が大問題を起こし、王位継承権を失ったのだから………。本当に、お父様に申し訳ない。………ミライ、お前は今のうちにパラベラム家を離れた方がいいぞ」


 「いいえ。私が仕えると決めているのは、エリカ様だけですから」


 「…………そうか。ありがとうっ…………」


 エリカの目は涙で溢れる。


 それをミライが拭く。


 「そういえば、エルンストって名前に聞き覚えはあるか?」


 「エルンストですか………。すいません、聞き覚え自体はあるのですが、どなたか存じ上げません」


 「そうか……」


 「エルンストという人が、どうかしたんですか?」


 「いいや、忘れてくれ」

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